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これが週刊文春の核心だ!「読者に買わせるための見出し」全内幕=小倉健一

新聞広告にも『週刊文春』の狙いが読み取れる(2016年12月1日号の新聞広告)
新聞広告にも『週刊文春』の狙いが読み取れる(2016年12月1日号の新聞広告)

「15年前は文春より新潮やフライデーの方が怖かった。やっぱり新谷学氏が週刊文春の編集長の時の、甘利明氏、舛添要一氏、そして“都議会のドン”(内田茂氏)ヘの一連の大キャンペーンでここまでやるかと驚いた。追及した相手のクビを取るまでトップ記事で追いかけてくる。そのあたりで徐々にその存在が怖くなったように思う」(自民党安倍派議員)。

読者に「買わせる」テクニック

 文藝春秋社のエース・新谷氏が『週刊文春』編集長時代に繰り出した3週連続の甘利氏、9週連続の舛添氏、14週連続の「小池百合子の敵」への大キャンペーンは、週刊誌業界そのものの勢力図を変えてしまったかもしれない。

 週刊誌の売れ行きを左右するものは、トップ記事である。ここにいかに強い記事をもってくるかが第一だが、次に売り伸ばしのために必要となってくるのは、そのネタをどう見出し(目次、タイトル、新聞広告の文言)で表現するかだ。

 週刊誌業界では「目次文学」とも呼ばれるその手法は、これまで世間一般に注目を浴びることはなかったが、ヤフーニュースのコメント欄やツイッターでの記事への反応を見ていると、その見出しの重要性について少しずつ気づいている人が増えてきた印象だ。新谷氏の一連の大キャンペーンを支えた「読者に雑誌を買わせる見出しテクニック」とは、一体どういうものなのか。

中身がわからない「目次文学」

 ネットメディアで、「詐欺タイトルだ」「中身とぜんぜん違うじゃないか」と感じる記事に出合ったことはないだろうか。中身は全然大したことないのに、見出しで驚かされて、ついクリックして読んでしまうものだ。

 もしくは、「これから10年で値上がりする街ランキング」と書いてあり、続けて「1位に選ばれたのはこの街!」とあるものの、1位の具体的な街名は読んでみないとわからないようになっているものもある。「2位・世田谷、5位・本八幡……」などとあり、1位、3位、4位がやはり読んでみないとわからないようになっていたりするのも、「目次文学」の一種と言えよう。

新聞と雑誌で見出しが変わる

 同じメディアでも、新聞と雑誌とでは見出しのつくり方がまるで違うことも知られている。新聞の見出しの特徴は、本文の内容を端的に要約したものが多い。

 例えば、「ドイツ、メルケル氏後継にショルツ氏 3党が連立合意」(日本経済新聞 2021年11月24日付)を読むと、本文には「ドイツでメルケル氏の後継がショルツ氏になった」「3党が連立合意した」ことについて、詳しく書かれている。このことは当たり前といえば当たり前なのだが、雑誌メディアからすると、「読まずに内容がわかってしまうので雑誌を買ってくれない見出し」「クリックしてくれないダメなタイトル」という判断のもと、見出しは編集長によって大きく修正されてしまうだろう。

 この例でいけば、①「3党連立合意でも、ドイツ『メルケル後継』が直面する試練」、②「ドイツの女帝メルケルの後継、ショルツとは何者なのか」、③「メルケルの後継が決定!ドイツの3党連立合意に残る不安」といったような見出しに変わることになる。

 順に説明すると、①はドイツの今後に焦点を当てた見出しだ。この見出しを読むと「試練」の中身に興味がある人は読み進めることになる。②は有名なメルケル氏の後継者ショルツ氏について知りたい人が読むことになる。③はドイツの政局が今後どうなるかを読みたい人に焦点を当てている。

 週刊誌の編集長は、こういった見出し候補をいくつかつくって、どれが一番読者を獲得するか考え、見出しを決定することが多い。そして、新聞のような記事内容の要約タイトルは極力避けるのだ。

週刊文春の見出し極意

 では、新谷氏の見出しづくりはどうなのだろうか。

 例えば、新谷氏が編集長だった当時の週刊文春トップ記事(新聞広告で右に配置されるため、業界では「右トップ」と呼ばれている)16年12月1日号の新聞広告を見てみよう(冒頭写真参照)。

 大きく、「安倍・トランプ 非公開会談 全内幕」と見出しが打たれている。当時、大統領選挙に当選して間もないトランプと安倍晋三首相の会談に世間的な注目が集まっていた。雑誌見出しの特徴である「中身が書いてない」に忠実で、「全内幕」とあるが、内幕が何かということが新聞広告からはわからない。さらに、「非公開」という言葉が「内幕」を引き立たせる効果を生んでいる。「非公開」のものの「内幕」が書いてあるぞ、と。

 タイトルの次に、小さい文字で補足説明が書いてある。業界では「リード」と呼ばれているもので、新聞であれば、内幕の大事な部分をここで簡単に説明する部分だ。新谷氏は何を書いたのだろうか。以下に全文を引用する。

「男の約束だからね」会談を終えた安倍は語った。安保・TPPからピコ太郎まで、安倍に最も近いジャーナリストだから書けるトランプの「本音」

肝心なことは書かない

 このリードには肝心なことが何も書いてない。辛うじて、安保・TPP(環太平洋パートナーシップ協定)・ピコ太郎が話題になったのだろうということがわかる。しかし、当時の読者であれば、安保・TPPが話題になったであろうことは知っている。「ピコ太郎」とは何だろうという疑問を持つ人はいるだろうが。

 知りたいのは中身だったはずだが、中身については何かが書いてあるようで何も書かれておらず、週刊文春を買って読まないとわからない。これは、新谷氏があえてそういうつくりにしているのだろう。新谷氏の見出しのつくり方は、週刊誌の方法論に忠実なものと言える。

見出し失敗の「黒歴史」も

 では、先に出した「ドイツ、メルケル氏後継にショルツ氏 3党が連立合意」(日経新聞21年11月24日付)を、新谷氏ならどういう見出しにつくり変えるだろうか。長年、新谷氏の見出しを見続けた私としては、以下のようなものになるのではないかと想像する。

 「これが3党連立合意の核心だ!メルケル後継『黒歴史』」

「この記事は些末な問題など扱っていない」という意味で、「これが核心」だと断言しているが、その「核心」については一切わからない。シュルツ氏は知名度が低く見出しとしては弱いため、「メルケル氏後継」と打つ。最後の「黒歴史」は、「キャッチー」な言葉であるうえに、どんな黒歴史なのかは読んでみないとわからない――といった次第である。

 過去には見出しが問題となったこともあった。週刊文春は「『中国猛毒米』偽装 イオンの大罪を暴く」(13年10月17日号)と題した記事で、「見出しや広告は、(イオンによる)猛毒米の販売という誤った印象を与える」「記事の見出しは名誉を傷つけている」(17年11月22日・東京高裁)として賠償金の支払いを命じられている。

 この「黒歴史」の背景には、「読者にとにかく雑誌を手にとってほしい」という強い気持ちから、新谷氏が筆を滑らせたという事情があったのかもしれない。

(小倉健一・ITOMOS研究所所長)

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