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『週刊文春』が14週連続で「小池百合子の敵」をたたいたワケ

総務省接待問題などのスクープが続いた2021年2月の『週刊文春』
総務省接待問題などのスクープが続いた2021年2月の『週刊文春』

 文藝春秋社のエース・新谷学氏が率いる『月刊文藝春秋』(11月10日発売・12月号)が、前号(10月7日発売・11月号)に続き、好調だ。大型書店チェーン書店員によれば「前号を大きく上回る初速で、通常号の倍売れる『芥川賞号掲載号』にも近いペース」という。

 最新号の表紙では、大きく「秋篠宮家『秘録』」と打ち、「この3年間に何が起きていたか 本誌特別取材班」と続けた。さらに、大きな反響のあった前号の「矢野財務次官の手記」に続く企画である「『矢野論文』大論争!」を表紙に掲載している。

 新聞宣伝でも「秋篠宮家『秘録』」を大きく右に扱い、左に「『矢野論文』大論争!」としていることから、新谷氏がこの両記事で最新号を売り伸ばそうとしているのが見て取れる。

編み出した連続キャンペーン

 新谷氏は『週刊文春』編集長時代、世間を揺るがすようなスクープを連発し、一連の報道が「文春砲」とも呼ばれるようになった。しかし、毎号続けて大きなスクープを連発できたわけではない。大きなスクープがない週は部数が落ちることもあった。

 そこで編み出されたと思われるのが、連続キャンペーンである。世間の関心が高まった時に、1号の追及で終わらせるのではなく、相手が辞任するまで、もしくは世間の関心が薄れて雑誌が売れなくなるまで、同じような特集を何週間も続けていく手法である。

 一般に、週刊誌編集部は早ければ3日、遅くとも1週間から10日程度の取材日数で記事化することになる。じっくり時間をかけて取材をするというよりは、限られた日数でできることをするのだ。読者にしても「自分の今の関心」で雑誌を買う傾向が強く、取材が多く重ねられたかどうかは二の次だ。ゆえに、生煮えのまま記事にし、名誉毀損になったケースもあった。

生煮えで名誉毀損の記事も

 週刊文春は「『中国猛毒米』偽装 イオンの大罪を暴く」(2013年10月17日号)と題した記事を掲載したが、「見出しや広告は、(イオンによる)猛毒米の販売という誤った印象を与える」「記事の見出しは名誉を傷つけている」(17年11月22日・東京高裁)として賠償金の支払いを命じられている。

 当時の文春を、社員はこう振り返る。「特定の人物に狙いを定めて特集を展開していくうちに、情報公開請求していた資料が集まり、さらにキャンペーンを追加できるようになった。長い期間、キャンペーンを打つことで、部数は安定した。ただし、現場の感覚では、部数の安定がうれしいというより、キャンペーンを続けることで他の取材のための時間が稼げるようになったことはメリットに思えた」。

 政治資金や政治家と企業のカネの流れを調べるためには、情報公開請求をする必要がある。それには一定の時間がかかり、内容に精査も必要だったものの、キャンペーンによる好循環が生まれるというメリットがあったというのだ。

 では、キャンペーンは具体的にどのように展開されていったのか。とりわけ、キャンペーンの期間が長くなっていった16年の特集を具体的にみていく。

甘利氏や舛添氏の追及で成果

 週刊文春は16年1月28日号で、トップに「政界激震スクープ!甘利大臣にワイロ1200万円を渡した」を掲載、完売した。

 するとそれを皮切りに、「実名告発第2弾 甘利大臣の嘘と『告発』の理由」「実名告発第3弾 甘利辞任スクープ すべての疑問に答える」と、3号連続してトップで甘利氏のスキャンダルを追っている。なお、第2弾と第3弾の発売日の間で、甘利氏は大臣を辞任している。

 その後しばらくは、連続してトップを同じにすることはなかったが、ゴールデンウィークになる頃に、当時東京都知事だった舛添要一氏の一連の追及が始まる。トップになった見出しは、こうだ。

①「舛添知事 『公用車』で毎週末『温泉地別荘通い』 告発スクープ」(5月5日・12日ゴールデンウィーク特大号)

②「自腹の時は マクドナルドのクーポンで“接待” 舛添都知事 血税タカリの履歴』(5月19日号)

③「舛添『汚れた都知事選』四百万ネコババ疑惑 独走第3弾」(5月26日号)

④「舛添都知事 カネと女『爆弾証言』独走第4弾」(6月2日号)

⑤「舛添都知事『母介護の大ウソと骨肉の銭ゲバ闘争』独走第5弾」(6月9日号)

⑥「あんな『調査結果』では納得できません 舛添都知事新疑惑!独走第6弾」(6月16日号)

⑦「舛添『辞職』をめぐる核心 女性社長(最後のブレーン)激白100分『出版社社長の正体』独走第7弾」(6月23日号)

徹底的な「小池氏の敵」たたき

 実は、第1弾スクープの前にも右トップではなかったが、「血税乱費 舛添知事の下劣な金銭感覚」とする記事を掲載しており、計8週にわたって舛添氏のスキャンダルを追求していくことになる。内容は、情報公開で得られた政治資金の流れと取材で得た生ネタを織り交ぜた記事のつくりになっている。

 甘利氏同様に、舛添氏の辞任により、追及キャンペーンは終わることになった。甘利氏と舛添氏のキャンペーンの間には3カ月程度の期間があったが、次にキャンペーンが始まったのは2カ月ほどと短くなった。内容は「内田茂氏(当時・東京都議会議員)を中心とする『小池百合子の敵』たたき」だ。

①「都議会のドン内田茂『黒歴史』」(8月4日号)

②「『内田のドンは辞めさせないとダメ!』小池百合子VS都議会のドン』(8月11日・18日夏の特大号)

③「小池百合子が斬り込む 都議会ドン『疑惑の核心』」(8月25日号)

④「『築地→豊洲移転』これが急所だ! 都議会ドン内田茂と4000億円『五輪道路』」(9月1日号)

⑤「追及第5弾 7300億円が2兆円に!『五輪予算』膨張の裏で都議会ドン関係企業続々受注」(9月8日号)

⑥「森喜朗親密企業が五輪案件続々受注」(9月15日号)

⑦「小池百合子VS豊洲利権 豊洲『盛り土なし』疑惑の都幹部は二代目ドンの盟友」(9月22発売号)

⑧「総力取材 豊洲の『戦犯』石原慎太郎とドン内田茂」(9月29日号)

⑨「『豊洲問題』混迷の元凶 石原慎太郎とドン内田茂 “無責任コンビ”の癒着』(10月6日号)

⑩「ドン内田一派の『政活費』を暴く!」(10月13日号)

⑪「ドン内田都議団の『裏金』7500万円告発」(10月20日号)

販売下がるまで同じ特集

 ここまでで11週連続。強烈なバッシングを受けならがらも内田茂氏が辞任をすることはなかったので、キャンペーンも止まることもなかった。ここで1週だけ(10月27日号)トップ記事が変わるが、「キャンペーン時より部数が落ちた」(前述の書店員)こともあって、翌週からトップでのキャンペーンを再開する。

⑫「小池百合子知事VS丸川珠代五輪相」(11月3日号)

⑬「『小池劇場』大混乱 暴走ブレーンVSドン内田のスパイ」(11月10日号)

 トップ記事ではなかったものの、10月27日号も「『広尾病院移転』にもドン内田一派」と題する記事を掲載。これを含めれば14週にわたる大キャンペーンが実施されたことになる。

 先の書店員に印象を聞くと、「販売実績と特集内容を照らし合わせていくと、販売が好調なものを連続して特集していっている。批判の矛先が辞任するか、販売が下がると、違う特集に切り替えている」という。

 自民党都議会議員は「メディアから小池は『善』、こちらは『悪』と決めつけられていた。文春でいえば、記事内では小池知事の批判もありバランスをとっていたのだろうが、見出しに採用されることはあまりなかった印象だ」としたうえで、「報道の自由は民主主義の基盤とはいえ、一方的な印象を与えかねない見出しの数々に大きな不満をもっていた」と当時の状況に不満を漏らした。

月刊誌でも手法変わらず

 月刊誌の編集長になった新谷氏が、週刊誌の方法論を踏襲するかを注視していた。月刊誌は週刊誌と違い、発売までの期間が長く、キャンペーンを続けるだけの「読者の熱」が持続するのかわからないからだ。

 しかし、冒頭で指摘したように、新谷氏は、2号連続で「矢野論文」関連の記事を掲載した。早速部数安定を見込んで、連続でのキャンペーンを目論んだのだ。

 であれば、最新号の好調な売れ行きを考えた時、私たちが得られる常識的な推論は、次号(12月発売号)も「秋篠宮家」を題材にした特集を組み、売り伸ばしを図る可能性が高いということであろう。

(小倉健一・ITOMOS研究所所長)

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