巨匠が後半生を捧げた「睡蓮」連作 主役は花か水面か 石川健次
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美術 モネ 睡蓮のとき
印象派を代表する画家、クロード・モネ(1840~1926年)の名は、睡蓮(すいれん)の花や葉が浮かぶ、複雑な水面(みなも)の表情を描いた「睡蓮」の連作でとりわけ知られているだろう。40歳を過ぎて移り住んだパリ北西の村、ジヴェルニーに構えた終(つい)の棲家(すみか)で、モネは後半生をその連作に捧げた。
光の変化に応じて微妙に変わる水面の表情など自然の諸相を鋭敏な視覚でとらえ、瞬時の印象として色彩に翻訳したそれら連作を、世界最大級のモネ・コレクションを誇るパリのマルモッタン・モネ美術館の所蔵品を中心に紹介するのが本展だ。
図版は、そのなかの一点。青い水面と睡蓮の葉の緑、ピンク色に染まる睡蓮の花など鮮やかな色彩のコントラスト、ハーモニーが魅力だ。可憐(かれん)なピンクの花が、なかでも印象的に映るだろうか。
この作品を描いた頃、モネはこう語ったと伝えられている。「私は視点を都度変えながら、たくさんの睡蓮を描きました。(略)実のところ、それらは脇役にすぎません。モティーフの本質は、あらゆる瞬間ごとに様相を変える水の反映にこそあるのです」(本展図録)。
例えば、画面中央に群がるように描かれる白は雲だ。陽光をいっぱいに浴びて青く輝く水面と白い雲との明瞭なコントラストは、まさに「あらゆる瞬間ごとに様相を変える水の反映」にほかならないだろう。
50歳のとき、それまで借りていたジヴェルニーの邸宅を正式に購入したモネは、土地を買い増し、そこに新たに睡蓮が浮かぶ池を造成した。池のほとりに陣取ったモネは、同時に広げた複数のカンヴァスに、時々にとらえた感覚を写し取っては、アトリエに…
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週刊エコノミスト
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