金利上昇で膨れる米銀の債券含み損 ウクライナ戦争に絡め取られる欧銀 市岡繁男
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米国で39年間続いた低金利の時代は終わった。今後、金利上昇のトレンドを迎えるとすれば、いつ金融危機に発展してもおかしくない。
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18世紀後半以降の米長期金利をみると、60年周期で動いている(図1)。覇権国の金利サイクルは、くしくもコンドラチェフ波動(景気循環の50~60年のサイクル)と一致するのだ。さらに、そのピークとボトムの日柄をみると、1899年に底打ちした金利は1920年まで21年間上昇し、その後は20年から41年まで21年間下降、さらに81年まで40年間上昇した。
そして今回、長期金利の底は2020年7月末で、ピークから39年間低下した。つまり最初の金利上昇期間と下降期間は21年、次の上昇期間と下降期間は約40年といった具合に時間軸が一致しているわけで、81年から始まった金利低下局面は終了したと考えてよいのでないか。昨年、81年から続いた金利低下トレンドを上抜いたことも、その推測を裏付けるものだ。
自己資本の3割にも相当
こうしたチャート分析もさることながら、今回のウクライナ戦争で、ベルリンの壁崩壊から30年以上続いた東西融合の時代が終わり、安価な1次産品や製品、労働力を得ることは難しくなった。これはデフレからインフレの時代にパラダイムシフトが起きたということに他ならない。筆者の長期金利・60年周期説に基づけば、2041年まであと18年間は金利上昇局面となるだろう。
ところが世界は、低金利が持続することを前提に債務を積み上げてきた。そんな過剰債務が存在するなかで金利が上がれば一体どうなるか。すでに、そのゆがみは数字になって表れている。
米連邦預金保険公社(FDIC)の22年7~9月期のデータによると、米銀は債券ポートフォリオに6900億ドル(約90兆円)の含み損を抱えている(図2)。これは自己資本の約3割に相当する莫大(ばくだい)な金額だ。途中売却をしない限り損失は表面化しないとはいえ、総資産(23兆ドル)の4分の1を占める債券残高(約6兆ドル)は、償還期限が来るまで数年間も資金が固定してしまう。
この間、インフレが激化して預金金利も上昇するならば、銀行は債券の含み損が拡大するだけでなく、資金の運用と調達の逆ザヤ拡大で、とんでもない損失を計上する可能性がある。実際、20年4月~21年9月における米5年債の金利は平均0.5%なのに…
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週刊エコノミスト
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