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週刊エコノミスト Online 書評

閉業する書店と創業する書店の“差”を読む 永江朗

 書店の閉店が相次ぐ一方で、新しい書店が続々と誕生している。ただし、閉店する書店と、新たに創業・開店する書店には違いがある。

 閉店しているのは、ナショナルチェーンやローカルチェーンのチェーン店、そして商店街で何十年と商売をしてきた小さな書店、いわゆる「町の本屋」が多い。

 一方、新たに創業・開店する書店の多くは、「独立系書店」や「個性派書店」と呼ばれる。この4月にはネットを使った会計サービスで知られるfreee(フリー)が、東京・蔵前に小さな書店を開いて話題になった。「透明書店」と名づけられたその店は、経営状況を逐一外部に公表するというコンセプト。運営・サービスにもITを駆使している。

 その前、3月には、東京・不動前に「フラヌール書店」が開店した。こちらはフリーランス書店員として書店実務のコンサルティングなどを手がける久禮(くれ)亮太氏の店である。東京だけでなく、地方でも新しい書店が次々と開店している。

 独立系書店、個性派書店には、いくつか共通点がある。規模が小さいこと。立地も、都市の中心部やターミナル駅近くではなく、住宅街や街はずれであることも珍しくない。品ぞろえが特徴的で、大手取次会社による見計らい配本を採用せず、置きたい本だけを選んで仕入れている。仕入れルートも出版社との直取引や小さな取次会社を使う店が多い。

 中小規模の従来型書店は雑誌販売への依存度が高いが、独立系書店・個性派書店は、雑誌をあまり扱わず、ベストセラーや自己啓発書、タレント本なども置いていない。新刊書に限らず古書や雑貨を扱う店も多い。カフェやギャラリーを併設する店や、本棚の一部を貸し出すシェア型書店にしている店もある。従来の「書店」というよりも、書籍・雑誌を核としてさまざまなモノやサービスを売る空間である。

 あえて極端な言い方をすると、大手取次が見計らいで一方的に配本する書店が次々と閉店していて、書店主やスタッフが主体的に本や雑貨を選んで仕入れて売る書店が新たに生まれている。出版界全体からするとさざ波のような変化だが、やがて大きな波となるかもしれない。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2023年6月6日号掲載

永江朗の出版業界事情 「新しい」書店が続々と誕生

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