閉店予告の“文士の街”杉並区阿佐ヶ谷唯一の書店が「八重洲ブックセンター」として営業を継続へ 稲留正英・編集部
東京・杉並区のJR阿佐ヶ谷駅前にあり、今月で閉店を予告していた書店が一転、営業を継続することになり、地元住民の間で安堵の声が広がっている。閉店を免れたのは、駅南口の商業ビルの一階にある「書楽(しょがく)」。昨年11月15日に、今年1月8日での閉店を予告していたが、昨年12月27日に大手書店の八重洲ブックセンターがその店舗を引き継ぐことが、急遽決まった。
阿佐ヶ谷は、戦前、井伏鱒二や太宰治はじめ界隈に住む作家が「阿佐ヶ谷会」を結成するなど「文士の街」としても知られ、住民も読書好きが多い。かつては、地下鉄丸ノ内線南阿佐ヶ谷駅の真上にあった大型店「書原」をはじめ書店は6店舗ほどあったが、近年は経営者の高齢化やアマゾンなどのネット通販の流れに押され、次々に閉店。阿佐ヶ谷で新刊本を扱う書店は書楽のみとなっていた。
書楽を経営する株式会社戎の戎井(えびすい)力代表取締役によると、書楽を閉めようと検討したのは、昨年6~7月のころ。書楽の経営は40年以上続き、店舗も黒字を継続していた。だが、戎井さん自身が76歳となり、体力的に厳しくなったほか、書店業の将来的な見通しも不透明なため、入居するビルのオーナーとの賃貸契約更改のタイミングで、自らは書店経営から身を引くことを決めたという。そこで、取引先の出版取り次ぎ大手に書楽の引受先を相談したが、結局、引き取り手が見つからず、昨年11月15日に閉店の張り紙を張り出した。
「閉店のニュース」で大手出版取り次ぎが仲介に動く
ところが、これが、NHKなどのニュースで取り上げられると、阿佐ヶ谷で書店が一つも無くなることを憂慮した出版取り次ぎ大手のトーハンが仲介し、閉店した東京駅八重洲口の店舗に代わる物件を探していた傘下の八重洲ブックセンターを紹介。その後、トーハンの動きを知った取引先の取り次ぎ大手も巻き返しに動いたものの、最後は八重洲ブックセンターに決まったという。
「書楽」としての店舗は1月末で閉店し、レジの改修などを経て、2月中旬から八重洲ブックセンターが引き継いだ新店舗として営業を再開する見通し。店舗名も「八重洲ブックセンター」となる。社員やアルバイトについては、希望者はそのまま、雇用を継続する。戎井さんは、「阿佐ヶ谷は杉並区で一番昔から本屋があった街。本屋に来るのを楽しみにしていた高齢者の顔が浮かんで、私も悩んでいた」といい、書店の継続が決まったことにほっとした表情を見せている。
(稲留正英・編集部)