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快走!宇都宮LRT 地域の移動手段として定着 梅原淳

生活インフラとして定着しつつある宇都宮ライトレール
生活インフラとして定着しつつある宇都宮ライトレール

 宇都宮ライトレールは開業初年度、想定を2割上回る利用者数を記録し、今年4月以降もさらに増えている。JR宇都宮駅西側への延伸計画も具体化してきた。

ダイヤ改正で朝夕増発、快速誕生、延伸計画も

 日本初のLRT(次世代型路面電車)として2023年8月に開業した宇都宮ライトレールは好調な滑り出しを見せ、その勢いは今も止まらない。新規に建設した宇都宮市と東隣の芳賀町を結ぶ路線(14.6キロ)で利用者が想定を2割も上回っただけでなく、初年度から8361万円の経常黒字を達成した。需要をしっかりと見極めたうえで地域の足として定着したことが大きな要因といえる。

 宇都宮ライトレールが発表した24年3月期決算の概要によると、営業収益は鉄道事業での7億3916万円、その他の事業での5534万円と合わせて7億9451万円であった。一方、営業費は9億954万円となり、1億1503万円の営業損失が発生したものの、線路や施設を保有する宇都宮市や芳賀町からの補助金を主体とした営業外収益が1億9877万円あったことなどから経常利益を計上できたという。

 開業前の収支計画では開業1年目の営業収益は7億9800万円、営業費は7億8000万円、営業利益は1800万円と見込まれた。宇都宮ライトレールの24年3月期の実績は219日間の営業によるものであるから、仮にこのペースで収支が推移した場合、年間の営業収益は当初見込みの約1.7倍となる13億3000万円に達していたこととなる。

全線乗り通す客多く

 営業費が当初見込みよりも多いのは、電力費の高騰など物価上昇の影響を受けたからであろう。なお、営業費に関しては宇都宮ライトレール開業前の23年4月1日~8月25日も開業後とそう大きく変わらない支出金額となっているため、仮に1年を通して鉄道事業を続けていても営業費はさほど変わらない。

 好決算の要因は想定を上回る人々の利用によってもたらされた。24年3月期の利用者数は約272万人で、当初計画の約220万人に対して2割多い。今年2月25日までの開業半年間で1日平均の利用者は平日が1万3000人、土休日は約1万人で、当初予測の平日1万2800人、土休日4400人をいずれも上回った。宇都宮市は好調の理由について、地域の移動手段として定着しつつある点を挙げている。

 平日は通勤、通学の利用者がおおむね予想通りに推移した点が好調の主な要因だ。宇都宮ライトレールによると、今年2月中旬の1週間の平日における1日平均乗降者数は、起点の宇都宮駅東口停留場がトップで9000人、次いでホンダの事業所の最寄りの停留場となる終点の芳賀・高根沢工業団地停留場の2600人だった。そのため、利用者が単に多いだけでなく、全線を乗り通す人が多く存在することがうかがえる。

 土休日では買い物、スポーツ観戦での利用が多かったという。24年2月中旬の土休日における1日平均乗降者数を見ると、トップは宇都宮駅東口停留場の7700人で、2位は多数の買い物客を集める大型ショッピングモール、ベルモールへの最寄りとなる宇都宮大学陽東キャンパス停留場の4100人であった。

 スポーツ観戦での利用は、グリーンスタジアム前停留場近くの栃木県グリーンスタジアムをホームとするサッカーJ2・栃木SC主催の試合が特に多くの人々を集める。今年2月中旬の調査時には栃木SCの試合は開催されなかったものの、それでも平日に1日平均1400人が乗降と、宇都宮駅東口、芳賀・高根沢工業団地、宇都宮大学陽東キャンパスの各停留場に次ぐ人々が乗り降りしたという。

 宇都宮ライトレールの目的は、宇都宮市、芳賀町に中量輸送規模の交通機関の整備とともに、道路渋滞の緩和であった。宇都宮駅東口─宇都宮大学陽東キャンパス間の線路が敷かれている大通りの鬼怒通りでは、日中の自動車などの交通量が昨年9月14日に約1万6000台と、15年10月の約2万4000台と比較して約3分の2程度に減少し、効果が確認されている。

2編成を追加導入へ

 新年度を迎えても宇都宮ライトレールは引き続き好調だ。4月1日にはダイヤ改正を実施し、各駅停車のスピードアップや朝夕ラッシュ時間帯の増発が実施され、主要な停留場に停車する速達列車の快速も誕生した。これらの施策が功を奏して1日平均の利用者数はさらに増加しており、平日は1万5000~1万6000人、土休日は1万1000~1万2000人となっている。

 宇都宮ライトレールには小中学校を中心に車両を貸し切りたいとの要望が寄せられ、6月1日から貸し切り運行が開始された。利用者の増加とあいまって、現状で3車体が1編成となった車両が17編成在籍する体制では、貸し切り運行時に不測の事態が重なった場合に安定した運行が難しい。そのため、宇都宮市は今年2月、2編成を27年3月期までに追加で導入することを明らかにした。

 ただし、昨今の物価上昇の影響で車両価格の高騰が懸念される。開業に向けて用意された17編成の価格は1編成当たり4億4000万円だった一方、追加導入分は1編成当たり7億5000万円と見込まれている。特殊構造を備えた車両だけに、価格の大幅な引き下げは難しい。だが、LRT用の車両の製造は17編成を製造した新潟トランシス(新潟県)以外にも、アルナ車両(大阪府)や近畿車輛(大阪府)も担当しており、両社の参入によって車両価格の高騰を多少は抑制できるかもしれない。

 今後の展望として、宇都宮駅の西側方面約5キロの延伸が現実味を帯びてきた。宇都宮市が今年2月に公表した計画では、宇都宮駅東口停留場からJR東日本の線路を越え、大通りを通って教育会館前停留場まで12カ所の停留場を設置するという。事業費は約180億~210億円で、今回開業した区間と合わせて営業利益は年間約2億円となる見込みだ。

 一部で道路の拡張が必要なこともあり、開業予定時期は30年代前半と少々先だが、今回の宇都宮ライトレールの好調な出足により、沿線では開業を待ち望む声が高まっており、期待が膨らむ。

(梅原淳〈うめはら・じゅん〉鉄道ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2024年7月16・23日合併号掲載

好調な宇都宮LRTの初年度 地域の移動手段として定着=梅原淳

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