資源・エネルギー 宇宙ビジネス新時代

地熱発電の潜在力は日本が世界3位 安定電源だが高い事業リスク 土守豪

 地熱発電は優れた発電安定性を持っている。ただ事業リスクや環境破壊の懸念がつきまとい、普及ペースは緩やかだ。

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 日本は世界有数の火山国だ。地熱発電のポテンシャルは約2300万キロワットと米国、インドネシアに次ぐ世界3位を誇る。環太平洋火山帯に位置する日本は、大地に宿る豊富な地熱資源に恵まれている。

 ただ現状では国内で稼働中の地熱発電所の出力は約60万キロワットで、世界10位(2023年12月)。日本の電力発電量に占める割合はわずか0.3%に過ぎない。現行エネルギー基本計画では30年時点で1.0~1.1%の電源構成比の見通しとなっている。

 地熱発電の強みは安定的な発電特性にある。風力や太陽光のように天候や気象状況に左右されず、一年を通じて一定量を発電できるという優れた安定性を持っている。熱水や蒸気が自然に回復するサイクルに見合うような地熱発電システムにすれば、地熱エネルギーは永続的な利用が可能となり、化石燃料輸入に頼っている日本にとって貴重な国産電源となる。

 地熱発電方式は大きく3種類ある。シングルフラッシュ発電方式は、地下で減圧沸騰した蒸気と熱水混合の地熱エネルギー体から、蒸気を気水分離器で1回だけ分離する。その蒸気で原動機を回して発電。日本の地熱発電所のほとんどがこの発電方式を採用している。

 ダブルフラッシュ発電方式は気水分離器で分離した熱水を減圧器に導入して蒸気をさらに取り出し、高圧と低圧の二つの蒸気で原動機を回して発電する方法。高温高圧の地熱エネルギーの場合に採用され、シングルフラッシュ発電よりも10~25%出力が増加される。

 バイナリー発電方式は低温の地熱エネルギーの発電に適している。水より沸点が低い媒体と熱交換し、この媒体の蒸気で原動機を回す発電方法だ。中小規模の発電に向いており、温泉地での導入が着実に進んでいる。

有害物質放出リスク

 地熱発電は再生可能エネルギー電源の中でも優れた特性を数多く持っているが、ポテンシャルが大きいにもかかわらず普及のペースは太陽光や風力と比べて順調とはいえない。開発には克服しなければならないハードルがいくつもあるからだ。

 まず事業のばくち性の高さ。地下資源の開発となるため、掘削による成功度合いのリスクがある。また調査から実際に開発工事に着手するまでにはリードタイムが長くかかるため多額の資金が必要だ。試掘井は地下数百から2000メートルまで掘削するのだが、1本当たり数億円と高価格。綿密な調査に基づいて試掘しても外れるリスクが常につきまとう。

 そして立地による環境破壊。地下の熱水や蒸気からヒ素などの有害物質が放出されるリスクもある。三井石油開発が23年6月に、北海道蘭越町などで手がけていた地熱発電プロジェクトで、高い濃度のヒ素などの有害物質を含む蒸気が掘削現場で発生。付近の住民で体調不良を訴える人が十数人出た。地熱発電に向けた資源量調査のため、地下およそ200メートルまで掘り進めたところ、突然蒸気が噴出し、地上数十メートルの高さまで立ち上ったという。

 三井石油開発は同年8月に、蒸気噴出口の井戸へ冷却用の水を注入して蒸気の噴出を抑制し、さらに砂利やセメントを使って地表まで井戸を埋め戻すことで、ようやく事態は収まった。

 地熱発電で難しいのは、こうした環境への悪影響を完全に排除することが難しいこと。改正再生エネ特措法が24年4月から施行されたことにより、再生エネ電源は地域と共生して開発するよう事業規律が強化された。自然環境への配慮と地元住民の合意などの体制を整備して開発トラブルを未然に防ぐ。有害物質を放出するリスクのある地熱は、太陽光や風力などの他の再生エネ電源よりも周囲の自然環境保全の面で開発のハードルが高い。住民の反対でプロジェクトが進まないことの要因になっている。

地元理解を得た開発も

 ただ地元住民の理解を得てプロジェクトが進む例も、地道に増えつつある。秋田県湯沢で温泉業者が協力する形で、Jパワーなどの山葵沢地熱発電所(4万6199キロワット)が19年5月に運転開始、出光興産などのかたつむり山発電所(約1万5000キロワット)が27年3月運転開始を計画。岐阜、長野両県にまたがる焼岳の地熱を活用した奥飛騨温泉郷中尾地熱発電所(1998キロワット)が、高山市奥飛騨温泉郷中尾に完成。22年12月1日から運転開始している。

 国の支援としてエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が積極的に開発を後押ししている。オリックスは24年5月に北海道函館市南茅部地域でバイナリー方式において国内最大となる6500キロワットの南茅部地熱発電所の商業運転を開始した。同発電所はJOGMECから開発資金債務保証を受けている。

 またJOGMECは地質調査・物理探査・地化学調査などに関する経費や坑井掘削調査の地熱資源調査費の補助を行っている。24年度の地熱発電の資源量調査・理解促進事業予算は約120億円を計上している。

 現在策定中の次期エネルギー基本計画では、40年の電源構成における再生エネ比率45%以上のさらなる引き上げが必須になる。再生エネ電源の多様化が必要となり、事業推進か環境保護か、エネルギー開発につきものの課題は地熱でも同様。将来の電源構成比率は、現状だと10%には届かないレベルと予想する。2300万キロワットのポテンシャルを切り開くには、環境へのマイナス影響を下げる、あるいは回避する技術の開発が必須となる。

(土守豪〈どもり・ごう〉環境ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2024年7月30日号掲載

宇宙・ビジネス新時代 地熱発電、潜在力は世界3位 開発が一筋縄では進まない現実=土守豪

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