クラファンで購読予約と仕入れと広告出稿をまかなう新方式の雑誌『イコール』創刊 永江朗
橘川(きつかわ)幸夫氏といえば、1972年に渋谷陽一氏らと音楽雑誌『ロッキング・オン』を創刊したことで知られる。その後も投稿誌『ポンプ』を創刊したり、オンデマンド出版社を立ち上げたりするなど、出版の新しい形を模索してきた。その橘川氏が季刊誌『イコール』(メタ・ブレーン)を創刊した。
『イコール』は従来の雑誌づくりとは違う方式で刊行されている。まず、クラウドファンディングで事前に支援金を集め、そこから印刷費や経費を捻出する。発行部数は支援金の額によって変化する。
橘川氏のニュースレターによると、1月に出た創刊0号は初版3000部を作り、大手取次2社にも卸した。取次からの注文があって1500部を増刷。しかし、その後、返品が1500部。5月に出た創刊号は支援金が減ったので初版は1500部とした。7月6日時点で取次からの返品ゼロ、倉庫の在庫ゼロ。ほぼ完売とのことである。
販売ルートは取次経由の一般書店販売(書籍扱い)、アマゾンなどのオンライン書店、全国のシェア型書店。クラウドファンディングに参加した人にはリターンとして『イコール』が届けられるから、事実上の予約出版といってもいいだろう。
クラウドファンディング出資者へのリターンは金額によって変わる。8月中旬発売予定の創刊2号の場合、出資額2000円なら1冊送られてくる。5000円なら雑誌1冊と、『イコール』主催のイベントやセミナー費用、会場での物販などに使えるコインが5000円分。面白いのが出資額1万円の場合で、雑誌が10冊送られてくる。出資者は転売自由だから、実質的には仕入れと同じ。そのほか、広告を出せるプランもある。つまり、予約購読と仕入れ、広告出稿を、クラウドファンディングでまとめている。
いま一般の雑誌の返品率は4割超と高止まりしたまま。返品された雑誌の多くは断裁され、紙の原料になる。クリスマスケーキや恵方巻きでは売れ残って廃棄される食品が問題にされるが、紙の雑誌も環境によろしくないのだ。橘川氏と『イコール』の試みは、出版の未来を探すヒントになりそうだ。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。
週刊エコノミスト2024年8月6日号掲載
永江朗の出版業界事情 橘川幸夫氏、新方式の雑誌『イコール』を創刊