本の取り寄せは取次ルート抜きで考えるべし 永江朗
アマゾン・ジャパンは今年8月、航空輸送を使った北海道への翌日配送を開始した。羽田空港から新千歳空港へ運航する旅客便の貨物スペースの空き部分を活用し、前日正午までの注文分を翌日に配送する。これまではトラックとフェリーを使い、到着までに2日以上が必要だった。また、札幌市や旭川市など一部の地域では注文当日に商品が届く「当日お急ぎ便」の利用も可能になった。これにより、離島を除く全国47都道府県で翌日配送サービスが使えるようになった。
一方、アマゾンに比べると出版流通の現状は歯がゆい。新刊書店では依然として注文品が届くまで時間がかかる。「取次業者に在庫があれば2~3日で、ない場合は10日から2週間程度で」と書店員から告げられた読者も多いことだろう。アマゾンとの利便性の差は開くばかりだ(もちろんアマゾンも在庫がなければ時間がかかる)。注文品を巡る書店の不満は大きいが、取次が本業で利益を出せない状況で、大規模な設備投資を伴う改善は見込み薄だ。
客からの注文にどう応えるかは、ずいぶん昔から書店界で議論されてきた。ネット通販が登場する前の1980年代には、「書店は注文を受けるべきではない」と語る書店員もいた。注文を受けて何日も客を待たせるよりも、確実に在庫を持っている書店(たいていは都心の大型店)を紹介する方が、急ぐ客にとっては親切だというのである。同業者からの批判もあったが、客の立場で考えると一理ある。
山内貴範の『ルポ書店危機』には、人気商品は取次経由では入荷しないのでアマゾンに注文して客に渡しているという書店が登場する。その額、年間150万円だという。もちろん書店の利益はゼロだ。
取次ルートの改善が見込めないことを前提に、注文品対策を考えるべきかもしれない。例えば、書店同士で商品を融通し合う。あるいは客に代わってアマゾンで取り寄せ、手数料を客からもらう。あるいは書店がアマゾンの代理店として受注と販売の窓口になる。実現可能かどうかも分からないただの妄想的なプランだが、取次をあてにしていたのでは前進もないだろう。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。
週刊エコノミスト2024年9月17日号掲載
永江朗の出版業界事情 差が開くアマゾンと新刊書店の利便性