実質賃金のプラス定着は夏以降か 積極的な賃上げ継続難しく 吉川裕也
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春闘のすう勢は全雇用者の5%に過ぎない。マクロの賃上げの実態を詳しく見ると、小規模・中小企業は特に、賃上げの持続性は慎重に評価する必要がある。
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官民挙げて実質賃金のプラス定着を目指す機運が高まっている。まず、春闘では2025年も、平均賃上げ率は5%程度が予想されるが、春闘でマクロの賃金動向を捉えることはできない。春闘のすう勢は大手企業の動向で決まるが、それは全雇用者数の5%程度を捕捉しているだけだ。
厚生労働省が発表する毎月勤労統計によると、今年の賃上げ動向は大企業(従業員数500人以上)と中堅企業(従業員数100〜499人)ではなく、小規模企業(従業員数5〜29人)と中小企業(従業員数30〜99人)がけん引している。小規模・中小企業はコロナ禍以降、生産性が低迷し、加えて深刻な人手不足感に直面しており、賃上げの持続性は慎重に評価する必要がある。
数字で確認すると、4〜9月における全体の所定内給与の伸びが前年比2.2%増、特別給与の伸びが同7.1%増となる中、小規模企業は基本給を抑えつつ賞与を増額し(所定内給与は同1.2%増、特別給与は同14.6%増)、中小企業は双方とも増額した(同3.4%増、同7.1%増)。
内需系が多い小規模・中小企業では、近年の円安が逆風となった企業も多く、業績が伴わないのに人手確保のために行う「防衛的賃上げ」を余儀なくされている可能性が高い。一方、中堅企業(同2.4%増、同6.3%増)と大企業(同2.1%増、同1.8%増)は、一部大手企業を除き、積極的な賃上げの姿勢はうかがえない。
賞与増額も限界に
賃上げの余力は企業の収益力に大きく依存するが、売り上げが損益分岐点をどれだけ上回っているかを示す「安全余裕率」をみると、小規模企業は23年度で11.1%と上昇傾向となっているが、賃上げによる損益分岐点の上昇を考慮すると心もとない(図)。
バブル崩壊から日本の金融危機に至る過程で、小規模企業の安全余裕率は8%台半ばからマイナス圏へと落ち込み、09年までに4回赤字を記録した。不況時に10ポイント程度の下振れがある…
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週刊エコノミスト
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