経済・企業稼げる特許・商標・意匠

つながる車で激化する通信業界vs.車メーカー 特許連合「アバンシ」=種市房子

    <注目事例1>

     100年に1度と言われる大変革機に突入した自動車業界──。各社が「つながる車(コネクテッドカー)」の研究開発にしのぎを削る。

     そんな中、自動車メーカーを相手に無線通信特許の有償使用契約をもちかける強大な組織が出現した。米国に実質的な活動拠点を置く「アバンシ(AVANCI)」がそれだ。

     特集「稼げる特許・商標・意匠」

    名だたる企業が参画(アバンシのホームページ)
    名だたる企業が参画(アバンシのホームページ)

    ドコモ、パナも参画

     通信事業世界大手のエリクソン(スウェーデン)の元CIPO(知的財産最高責任者)のカシム・アルファラヒ氏が創設し、最高経営責任者(CEO)を務める企業連合体である。NTTドコモやパナソニック、ソニー、シャープなど日本勢に加えて、米半導体大手クアルコム、エリクソン、通信世界大手のノキア(フィンランド)など名だたる有力企業が参画する。

     つながる車の主要な機能は、自動車を基地局と結んでデータを送信し、そのデータを集積する、あるいは解析してサービスを提供することにある。サービスの内容は、事故時の自動通報▽運転の癖を把握して、安全運転の場合には保険料を安くする▽車の位置情報を集積・解析し、渋滞予想や最適ルート情報を無線通信で提供──などが想定されている。これらのサービスの大前提となるのが、自動車と基地局との間の無線通信だ。

     アバンシは、無線通信にかかわる多数の特許をまとめてワンストップで提供し、見返りに使用料(ライセンス料)を徴収する。ライセンス料は、車両事故時に自動的に連絡受付センターへ通報する「eコール」(欧州で今年から新車への搭載義務づけ)の特許が1台当たり3ドル(約330円)▽2G(第2世代無線通信)・3G(第3世代無線通信)の特許が同9ドル(約990円)▽現在、日本で商用化されている最先端無線通信である4G(第4世代無線通信)の特許は同15ドル(約1650円)だ。

     アバンシが得たライセンス収入は、参画企業に分配する。同社はこの取り組みの狙いについて「効率的に技術を分け合い、イノベーションを起こせる市場をワンストップで提供すること」とコメントしている。

    通信側「条件は透明」

     アバンシは2017年12月、独BMWとライセンス契約締結で合意したことを発表し、大きな話題を呼んだ。両者は詳細な契約内容を公開していないが、上記のような料金体系で、BMWが製造する車1台当たり3~15ドルをアバンシに支払うことが柱とみられる。自動車業界関係者によると、この実績を引き下げて、日本の自動車メーカーに接触し、特許使用契約を持ちかけているという。

     通信分野は一つの技術を巡って、電機メーカー、半導体メーカー、携帯電話会社などさまざまな業界の企業が特許を持つ。

     たとえば、4Gでは万単位の特許があると言われる。かつて、電機メーカーなどがスマートフォンを製造したくても、クアルコムなど無線通信の特許を持つ個別企業と逐一使用条件の交渉をしなければならなかった。これでは、個別企業に支払うライセンス料は低くても、各社合計のライセンス料は高騰する。個別の特許権者との交渉も非効率だった。そこで「パテント・プール(特許プール)」という仕組みが使われることになった。

     プールをまとめる組織や企業が、その技術に必要な関連特許を一堂に集めて、特許使用者とワンストップでの使用許諾の契約交渉に当たり、ライセンス料を徴収する仕組みだ。技術を広めることを趣旨としているため、高いライセンス料を要求しないのが一般的だ。

     無線通信を巡っては、アバンシ設立前にも「ビア・ライセンシング(米)」や「シズベル(欧州)」などの特許プールが存在した。しかし、これらのプールにはエリクソンやクアルコムといった有力企業が不参加だった。両社は無線通信の基本的な特許を多数押さえており、スマホメーカーなどは両社との個別交渉が不可欠だった。

     一方、アバンシには16年の設立当初から両社が参画し、通信業界に驚きを与えた。今年10月には、ドコモやノキアも参画した。

     ドコモの丸山康夫知的財産部渉外担当部長は「当社の収益の柱はあくまでも通信事業と、動画配信や金融決済などのサービス分野である『スマートライフ事業』という実業だ。個別企業と交渉して高いライセンス料収入を得ることではない。しかし、研究開発に投じた適正な対価は回収しなくてはならない。特許プールは、一般的にライセンス料が高騰しない仕組みであり、当社が開発した技術を廉価で世の中に広めると同時に、適正な対価を得るには適切な手法だ」との認識を示す。

     その上で「アバンシにはエリクソン、クアルコム、ノキアも参画しており、無線通信関連の特許の多くを網羅している。ライセンス料などの条件も公表しており、特許使用者にとっても意義ある団体ではないか」と話す。

    自動車側に警戒感

     一方で、自動車メーカーには戸惑いが広がる。そもそも自動車にはこれまで無線通信技術は、ほとんど使われておらず、自動車メーカーはこの分野の特許使用交渉には慣れていない。そして現在、アバンシが持ちかけている特許使用契約は4Gまでだ。自動車メーカーが思い描く「つながる車」は4Gの容量・速度では満足できず、次世代無線通信「5G(第5世代)」の使用を想定している。「1台3~15ドルは大きな負担ではないが、何も急いで4Gの特許使用契約を結ぶ必要もない」という模様ながめの様子もある。

     また、アバンシの特許群には「つながる車」には不要なものも含まれている可能性があり、結果としてライセンス料が高くつくのでは、との疑念も拭えない。仮にラインセンス料を支払う契約を結んだ場合、消費者に価格を転嫁するのか、自社で負担するのかという検討も必要だ。なお、本誌は複数の自動車メーカーにアバンシへの対応について取材を申し込んだが「個別案件については答えられない」との回答だった。

     今は模様ながめの自動車メーカーだが「今後、アバンシは5Gの特許も取りまとめて、4Gより高い価格での使用許諾を持ちかけてくるだろう」との警戒感がある。同時に、「つながる車」の中心的技術である無線通信特許を他業界に握られることに危機感を抱いているようだ。他社に中核技術の特許を握られていれば、高い使用料を求められる恐れがあり、特許権者の意向次第で製品製造自体が止まるリスクがあるからだ。

     このようなリスクに対応するため、自動車メーカー自らが無線通信技術を研究・開発して、特許を取得しようとする動きが出ている。たとえ、通信事業者や電機メーカーに中核技術の特許を握られていても、自動車メーカーも対抗しうる特許を持っていれば、それぞれが持つ特許を相互に使える「クロスライセンス」(26ページ参照)へ持ち込めからだ。

     クロスライセンスに持ち込めば、相手の特許を「踏む」ことなく車の開発に打ち込める。そのクロスライセンスに持ち込むためには、自らも高度な技術の特許を持たなければならない。水面下では、自動車メーカーが通信技術関係者の求人を加速し、通信技術を磨いている。

    (種市房子・編集部)

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