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退職金丸ごと投資はNG=正岡利之/1

リフィニティブ(データストリーム)のデータから三菱UFJ信託銀行作成
リフィニティブ(データストリーム)のデータから三菱UFJ信託銀行作成

「人生100年時代」と言われている。長い人生で将来の生活に困らないように、資産運用を検討する人も多い。そんな中で、気になるデータがある。

 当研究所の実施したアンケートによると、「投資デビューは退職金でまとまった資金が手に入ってから」とする人が、約10%に上ることだ。退職金は、将来の生活の一助となる大切な資金。退職金のようにまとまった資金が入ってからの資産運用でいいのか。

「利益を稼ぎたいが、損はしたくない」と思う時、「もうかる銘柄をタイミングよく売買したい」と考えるのは人情だろう。

 しかし、それが継続・反復して成功する可能性は、現実には高くない。むしろ投資を行うことで起こり得るリスクを勘案し、投資金額をいくらにするかを決めておくことが先決だ。

 何がどのくらいもうかるのか、将来のリターンを予測するのは難しいが、市場の価格がどの程度振れるのか、つまり、どの程度のリスクがあるのかは、過去の実績からある程度想定できる。そのことから、投資金額をどのくらいにするのかを検討できる。

 図は、国内外の債券と株式、およびその4資産を均等に保有した「バランス型投信」の五つのタイプについて、10年間の投資期間の中で、評価損益(時価−元金)が元金に対してどの程度の比率(評価損益率)に分布しているかを示したものだ。1985年1月から毎月、新たな10年間の投資をスタートする。最終回である「2009年1月〜18年12月」までに289パターンの「10年間投資」のデータが得られる。そのすべての「10年間投資」のあらゆる時点での評価損益率を網羅的に表示した。

許容できるリスクを

 棒グラフが長いほど、評価損益率の振れ幅が大きい。株式の方が債券よりも振れ幅は大きく、また4資産をバランスさせることで、振れ幅は小さくなる。「バランス型」を例にとると、最大の評価損率はマイナス37%であった。これは100万円を投資して、一時的にせよ最大で37万円の評価損になった時があることを示している。

 投資金額を決める際のポイントは、「最大のマイナス幅に耐えられる投資金額」にしておくことだ。投資部分だけでなく、現預金などを含めた資産全体で考えよう。

 例えば、全資産が1000万円のうち、バランス型投信への投資金額を100万円、残りの900万円を元本保証の預貯金にする。1000万円の全資産に対して最大で37万円の一時的な評価損を許容できるかどうかだ。

 逆説的だが、よくないケース(リスクシナリオ)を想定して行動する方が、心理面で前向きになれる。価格が上下してもそのままにしておける「投資金額」なら、頭と気持ちを悩ますことなく、中長期の成長に投資できる。「虎の子」の退職金を一気に丸ごと投資する前に、まずは自分に合った投資金額を考えよう。

(正岡利之・MUFG資産形成研究所長)


 ■人物略歴

まさおか・としゆき

 1982年、三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社。主に年金や投資信託を中心として、資産運用業務に携わる。2015年より同社で金融教育業務に従事。18年8月より現職。

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