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反英とも反EUとも言い切れない北アイルランド住民の本音とは=石野なつみ
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シン・フェイン党が第1党に
英領北アイルランドの議会選挙結果を巡り、英中央政府やEUも巻き込んで政情不安が広がる可能性がある。
北アイルランドで深まる「溝」=石野なつみ
5月5日に行われた英領北アイルランド議会選挙(定数90)で、隣国アイルランドとの統一を訴えるシン・フェイン党が27議席を獲得して史上初の第1党となった。シン・フェイン党は今後、南北アイルランドの統一を問う住民投票の実施にも意欲的で、北アイルランド内の統一反対派だけでなく英国中央政府や欧州連合(EU)も巻き込んで、緊張状態がさらに高まる可能性がある。
北アイルランド議会では、英連合王国への帰属維持を主張する民主統一党(DUP)が第1党を維持してきたが、今回の議会選では前回2017年3月の議会選に比べて議席減の25議席にとどまった。シン・フェイン党は改選前と議席数は変わらないものの、得票率は前回17年に比べて1.1ポイント上昇し、現地では「歴史的勝利」と表現されている。一方、DUPの得票率は6.8ポイントも低下した(図)。
シン・フェイン党は選挙期間中、統一を問う住民投票の主張については抑制し、社会保障の充実などを訴えた。一方のDUPは、昨年初に発効した「北アイルランド議定書」への強硬な姿勢などが有権者に嫌気された。議定書は英国のEU離脱に際し、北アイルランドをEU単一市場と連携させるために英国とEUの間で19年に合意したが、DUPはこれを英国本土と北アイルランドを切り離すとして今も認めていない。
ただ、シン・フェイン党のマクドナルド党首は選挙後の5月19日、英スカイニュースのインタビューで「今後10年の間にアイルランド統一を問う住民投票が実施されることを確信している」と言及し、統一への機運の高まりに期待感を示した。一方、DUPのドナルドソン党首は住民投票への動きについて「分裂を広げる」などとして、批判を強めている。
自治政府も発足せず
議会選後、北アイルランド自治政府も行き詰まっている。北アイルランド自治政府は、議会第1党から首相、第2党から副首相を選ぶことになっているが、シン・フェイン党は前副首相のオニール副党首を首相に指名することを決定した一方、DUPは副首相の指名を拒否したままだ。DUPは北アイルランド議定書を破棄する確約がない限り副首相を指名拒否するとしており、シン・フェイン党との溝は深まる。
DUPはさらに、5月13日に行われた北アイルランド議会議長を決定する投票もボイコットしたことから、シン・フェイン党は民主主義を守っていないとしてDUPを非難している。また、今回の議会選挙の結果、北アイ…
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週刊エコノミスト
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