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法務・税務 書評

今こそ、作家をサポートするエージェント業務の推進が急務 永江朗

 作品のテレビドラマ化についてSNS(交流サイト)に投稿した漫画家が急逝し、テレビ局や出版社などの対応が議論を呼んでいる。ここで筆者の私見を述べたい。

 亡くなった漫画家が作家エージェントと契約していれば、防げた不幸だったかもしれない。一連の報道を目にして筆者が思ったことである。あるいは、エージェントと契約していたのだとしたら、それが十分に機能していなかったのではないか。そのため、ドラマ化に関してテレビ局に要望を伝える際も、作家が矢面に立たされる場面があったのではないか。彼女の死の遠因はそこにあるのではないか。もちろんこれは報道されたことからの筆者の推測にすぎないのであるが。

 出版界では出版社が漫画家や小説家のエージェント的な役割を果たすことが多い。出版社という組織を離れても、作家のために親身になって動く編集者は多い。たとえば作家や作家の家族の冠婚葬祭を担当編集者が手伝うという話もときどき聞く。

 だが、作家と出版社の利害が常に一致するとは限らない。利害の対立が起きると、作家はひとりでさまざまな対処を迫られる。日常の創作活動を進めながら。出版社が組織であるのに対して、作家は個人である。

 法務や利害調整に長(た)けたエージェントと契約していれば、作家の負担は軽くなり、創作活動に専念できるだろう。出版社とは別の立場で作家の利益を最大化するようなエージェントの存在意義はそこにある。しかし、今のところ日本ではエージェントと契約している作家は少ないし、エージェントそのものも少ない。もっと作家エージェントを増やす必要がある。

 もちろんエージェントは無料サービスではない。売れている作家は契約する余裕があるだろうが、そうではない作家はどうすればいいのかという問題がある。そこは日本漫画家協会や日本文芸家協会など職能団体の出番だと筆者は考える。これまでも各職能団体は契約等についての相談を受けてきた。しかし、さらに踏み込んで、エージェント業務も積極的に展開してほしい。今回のような悲劇を繰り返さないためにも、出版界は変わらなければならない。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2024年3月5日号掲載

永江朗の出版業界事情 エージェント業務の推進が急務

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