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週刊エコノミスト Online 書評

経産省の書店振興PTは再販制見直しまで行くか 永江朗

 経済産業省は3月5日、省内横断の組織として街の書店を振興するプロジェクトチーム(PT)を設置した。ただし、具体的に何をやるのか詳細はまだ不明。業界内には、ネット書店の無料配送を禁止してほしい、キャッシュレス決済に対応するための設備投資を支援してほしいといった声があるようだが、一方、SNS等ではなぜ書店だけが振興対象なのかという疑問の声もある。激減しているのは書店だけではない。また、「文化」と結びつけて考えるというなら、なぜ経産省なのか。

 筆者としては経産省PTよりも、高井昌史紀伊國屋書店会長の発言に注目したい。高井会長は専門紙『文化通信』(3月12日号)のインタビューで業界改革の実現を訴えた。具体的には返品率を下げて書店の粗利を増やす、そのために買い切り取引を導入していくというのである。

 日本の出版流通は返品可の委託仕入れが主流だ。返品率は書籍で約30%、雑誌で約40%と高止まりしたまま。書店の粗利が平均22%程度に低く抑えられているのも返品があるから。返品をやめて買い切りにすれば、書店の粗利は増やせるはず。

 高井会長の発言は、長年洋書を扱い、海外での店舗展開も多い紀伊國屋書店ならではの発想だろう。海外では買い切り取引が主流で、書店の粗利も多い。アマゾンは日本国内の書籍販売でも高い利益を上げているといわれるが、彼らも直取引に力を入れている。

 買い切り直取引を進めれば、次に問題になってくるのは不良在庫をどうするかだ。欧米ではバーゲンセールで在庫処分する。しかし日本では定価販売(再販制)という業界慣行がネックになる。

 さて、ここで話は冒頭の経産省PTに戻る。経産省が高井会長の構想のように委託仕入れなど商慣行の改革にまで踏み込んだ振興プランを出してくるのなら、書店の経営は劇的に変わるだろう。さらに再販制の見直しまで含めたらどうか。意欲的な書店は残っていくだろうし、新規参入も増えるかもしれない。だが既存の商慣行には一切手をつけないまま、ネット書店の無料配送を狙い撃ちにするだけなら、あまり成果は望めないのではないか。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2024年4月9日号掲載

永江朗の出版業界事情 商慣行改革まで行くか、経産省が書店振興

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