書店と図書館の「対話の場」が発表した“成果”を読む 永江朗
「書店・図書館等関係者における対話の場」は、出版文化産業振興財団(JPIC)、日本図書館協会、文部科学省総合教育政策局の連携の事業。書店や出版社、公共図書館、学識経験者らで構成され、2023年10月から24年3月まで4回にわたって開催された。4月1日に発表された「まとめ」では、これまでの議論で得られた現状や課題に関する共通認識や書店と図書館の連携方策が提示されている。
興味深いのは「複本問題」について。公共図書館がベストセラーを大量に所蔵して貸し出し、書店の経営や作家の生活を圧迫しているという批判は、20年以上前から続く。一部の書店や出版社からは、複本制限や貸し出し猶予期間の設置などを求める声もあった。しかし「まとめ」ではベストセラー本の複本は平均1.46冊で、約6割の図書館の複本は「2冊未満」で過度とはいえない状況にあるとした上で、実証研究に基づいて「全体として図書館による新刊書籍市場の売り上げへのマイナスの影響は大きくないこと」「少数のベストセラー等の売り上げ部数の多いタイトルの売り上げへの影響は小さくないこと」が確認されたとしている。
対話の場の座長でもある大場博幸日本大学教授の研究(固定効果モデルによる重回帰分析)によると、図書館の所蔵1点の増加で書店の売り上げは月に0.06冊減少する。ただし上位32タイトルについては所蔵1点の増加で月に0.27冊の売り上げ部数減少があるという。
影響の大きさをどう捉えるかは個人差もあるだろうが、かつて話題になった「図書館栄えて物書き滅ぶ」などという言説はかなり誇張されたものだと言っていい。しかし、逆に言うと、影響は少ないというデータを示されても感情的な問題(「苦労して書いた本をタダで読まれる」等々)は残るだろう。「まとめ」では、「形式的なルール等よりもまずは関係者間の相互理解が重要である」としているのは妥当だ。
忘れてならないのは本は読者のためにあるという基本だろう。ぜひ「関係者」には読者も含めてほしい。現在と未来の読者のために、書店と図書館はどうあるべきかを考えていこう。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。
週刊エコノミスト2024年4月30・5月7日合併号掲載
永江朗の出版業界事情 書店と図書館めぐり「対話」の成果発表