作家3団体が電子書籍化を含む読書バリアフリー推進で共同声明 永江朗
日本文芸家協会、日本推理作家協会、日本ペンクラブは4月9日、「読書バリアフリーに関する三団体共同声明」を発表した。声明は、表現に携わる者として今年4月に施行された改正障害者差別解消法のほか、読書バリアフリー法(2019年6月施行)、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法(22年5月施行)に賛同の意を表し、「私たちは出版界、図書館界とも歩調をあわせ読書環境整備施策の推進に協力を惜しみません」としている。
読書バリアフリーについては、重度障害者で人工呼吸器と電動車椅子を常用する市川沙央氏が『ハンチバック』で芥川賞を受賞したことをきっかけに、出版界の課題として認識されるようになった。読書バリアフリー法が成立してから5年もたつのに、電子書籍化されていない出版物は多い。電子化が進まない背景には、出版社の資金難や人材・人手不足、著作者の理解不足などがある。
文芸書は比較的電子化が進んでいるジャンルではあるが、紙版しか出さない作家が少なからず存在する。その理由は紙の本へのこだわりからか、あるいは電子書籍は書店と敵対するものだという考えからか。「私は紙の本が書店を守ると思い込んでいた」という日本文芸家協会の林真理子理事長の発言が象徴的だ。
紙の本は書店を守ったかもしれないが、紙では読めない人を阻んできた。読書バリアフリー法などが想定するのは視覚障害者だけでなく、障害や病気、けがなどで紙の本を持ったりページをめくったりすることが困難な人、ディスレクシア(読み書きに困難のある学習障害)等も含む。三団体共同声明を受けて、これまで電子化を拒否していた作家も積極的になることを期待したい。
林理事長の発言が表すように、電子書籍の出現は、著作者、出版社、書店、読者の利害関係が、必ずしも一致しないことをあらわにした。電子書籍の普及と市場拡大は書店にとってマイナスである。しかし、紙の本を読むことを阻まれていた読者にとっては大きなプラスだ。いま「街の本屋を守れ」という大合唱が聞こえてくるが、中小零細小売店経営の問題と文化の問題は冷静に区分けして考える必要がある。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。
週刊エコノミスト2024年5月28日号掲載
永江朗の出版業界事情 読書バリアフリーに向け共同声明