紛争関与を米国と“シェア”する国は? ウクライナもガザも事態改善ほど遠く 石井正文
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米国の同盟国・同志国は国際問題の解決を分担する「チャレンジ・シェアリング」の時代を迎えているが、十分に対処できていない。
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ロシアが2022年2月、ウクライナに侵攻し、今なお激しい戦闘が続いている。昨年10月にはパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃し、ガザ地区の市民を巻き込んだイスラエルのハマス掃討作戦もし烈を極める。ウクライナ、ガザの二つの戦争は、いずれも停戦が模索されながら、終わりが見えない。
なぜ二つの戦争が終わらないのか。その理由を考えるには、我々が生きる時代の性格を、理解する必要がある。米国一極支配が終わり、世界は多極化の時代を迎えたとの議論がある。しかし「国力」で見る限り、いまだ米国が唯一の超大国だ。中国の人口は米国の4倍以上だが、米国の国内総生産(GDP)は中国の1.5倍以上、国防費では中国の2.5倍以上。世界の国防費総計の約4割は米国が占める。
問題は「力」ではなく、国際紛争に関与する「意思」の減退だ。2013年にオバマ米大統領が、「米国はもはや、世界全体の警察官であるべきではない」と述べてから10年。米シンクタンク、シカゴ・グローバル問題評議会の昨年9月の報告書によると、世界情勢に一層関与すべきと考える米国人は、全体では57%にすぎず、民主党支持者は70%と高いものの、共和党支持者となると47%に減る。
また、世論調査会社ピュー・リサーチ・センターの18年11月の調査によれば、世界で軍事的優勢を保つことを米外交の最優先課題と考える米国人は65歳以上では64%あり、同年代層では米国が海外への軍事的関与を減らすべきと考えるのは20%にとどまる。しかし、年齢が下がるにつれ積極関与の考えが低下し、18歳以上29歳未満では積極派が30%、消極派が34%と逆転する(図)。この傾向は今後も続くのだ。
以前であれば米国は国際紛争を止めるため、恨まれても持てる国力を惜しみなく使った。「バードン・シェアリング」との言葉を記憶している読者もいよう。米国が紛争処理という「挑戦」に一国で対応することはいとわないが、それにはコスト(バードン)がかかるので、それくらいは同盟国に分担(シェア)してほしい、と考えていた時代だ。
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時は流れ、現在我々がいるのは「チャレンジ・シェアリング」の時代だ。米国は能力的には今も可能だが、一人で国際問題を解決する「意思」は萎え、同盟国と同志国がコストのシェアは当然として、国際問題解決という「挑戦」(チャレンジ)自体をシェアすることなしには、紛争は解決しない時代に入ったのだ。「できないことはみんなでやる」(英語ではShare the Challenge)のである。
岸田文雄首相が今年4月、訪米時の議会演説で「米国は、助けもなく、たった一人で、国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」「米国は独りではありません。日本は米国とともにあります」と述べたことはまさにそのメッセージであり、米議会はスタンディングオベーションで応えた。一方、多くの米国の同盟国・同志国は、新時代に慣れておらず、実際、十分にチャレンジ・シェアできずにいる。
したがって、二つの戦争は憎まれ役の“留め男”が不在の中、確実に長引く。今年11月の米大統領選で共和党候補となったトランプ前大統領は「自分が(再び)大統領になれば、ウクライナ戦争を1週間で終わらせる」と豪語するが、対ウクライナ支援をやめて停戦受け入れ圧力をかければ紛争が終わる、と考えているなら大きな間違いだ。
停戦実現にはまず、ウクライナ政府が戦争で何かを得たと国民に説明できることが不可欠だ。その意味で、すでにウクライナ領土の一部を支配しているロシアは今でも停戦に応じられるが、同時にロシアがこれだけ明白な国連憲章…
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週刊エコノミスト
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