米中対立なお“喧騒の時代” 国際秩序の先導役は? 武内宏樹
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米国の対中強硬姿勢は大統領選後も変わりそうにない。中国も国内に矛盾を抱える以上、国際秩序を主導する余力はなさそうだ。
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米中の対立が深まる中、どちらの外交政策も国内政治に足を引っぱられているため、当分はお互いに「お前が悪い」と言いあう水掛け論が続きそうだ。米国の対中強硬姿勢は、今年11月の米大統領選で共和党のトランプ前大統領、民主党のハリス副大統領のいずれが当選したとしても変わりそうになく、今後も“喧騒(けんそう)の時代”は続くだろう。
大統領選に向け、共和党の副大統領候補となっているバンス上院議員は2023年末、次のような発言をした。「この街では社会保障を切り詰め、祖父母の世代が貧困に陥っても構わないとする人々がいる。なぜか。(ウクライナの)ゼレンスキー大統領の閣僚らがもっと大きなヨットを買えるようにするためだ」(『日本経済新聞』電子版23年12月22日付)
バイデン政権に対抗する共和党では、「敵の敵は味方」とばかりに、かつてないほどロシアのプーチン大統領への支持が広がり、今年4月にようやく成立したウクライナ支援を盛り込んだ法に反対票を投じた議員も多かった。バンス氏もその一人だ。
そもそも、米国からの支援金の大半は米国内での兵器製造に使われ、金融支援としてウクライナ政府に送られる米ドルは厳しい監査を受けるため、大型ヨットの代金に使われるなどとはデタラメな話だ。だが、権力欲の強い日和見主義者は、荒唐無稽(むけい)な理屈を持ち出す。いまや、ウクライナ支援は政争の具に成り果ててしまっている。
米国ではグローバル化への「怒り」が噴き出しているというが、トロント大学(カナダ)のニコール・ウー氏の一連の研究では、技術進歩によって雇用をおびやかされている人たちが、その不満のはけ口を移民排斥や保護貿易に求めるからだと結論づけている。おもしろいことに、グローバル化のせいにした回答者を支持政党で分けると、共和党支持者は「移民のせい」、民主党支持者は「貿易のせい」と回答したそうだ。
貿易と移民が「はけ口」
「ラストベルト」(Rust Belt、さびついた工業地帯)とよばれる中西部諸州では、かつて雇用を生んでいた有力企業の工場が閉鎖に追い込まれ、暮らしの水準が落ちてしまった。寂れた原因は技術進歩や自動化であってグローバル化ではないのだが、仕事を奪われた不満を持つ白人労働者は「貿易と移民が仕事を奪った」という結論に飛びついてしまう。移民や貿易は、機械などと違い、「物」ではなく「人」や「国」がターゲットであり、スケープゴートにしやすいのだろう。
パレスチナ自治区ガザ地区におけるイスラエルとハマスの戦闘では、「イスラエルかパレスチナか」という二者択一を迫る米国社会の深刻な分断のために、イスラエルのガザ侵攻に対してバイデン政権は煮えきらない態度を取らざるを得ず、イスラム教徒が多い国を中心に米国はグローバルサウス諸国の信頼を失う結果となってしまった。
たとえば、シンガポールのシンクタンク、ユソフ・イサーク研究所(ISEAS)が東南アジアの識者を対象に実施した意識調査結果によると、「米国か中国か」の選択を迫られた場合に中国を選ぶ人の割合が、イスラム教徒が多いインドネシアとマレーシアで今年、それぞれ73.2%、75.1%と、いずれも昨年に比べて20ポイント近く上昇したという。
元来、米国は「外国から学ばない」国だ。超大国としての神通力で世界をリードできたときはよかったが、影響力が落ちると国としてのコミュニケーション能力の欠如があらわになる。そんな国が「民主主義対権威主義」という対立軸に拘泥するとどうなるか。グローバルサウス諸国は権威主義体制の国が多く、米国は米中の陣取り合戦で不利な立場に追い込まれる。
それでは、中国は国際秩序を主導できるのか。ロシアと中国は22年2月、中露首脳会談での共同声明で「限界がない」協力関係をうたい、ロシアのウクライナ侵略には「親露中立」(pro-Russian neutrality)と呼びうる立場をとる。戦…
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週刊エコノミスト
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