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公共図書館ゼロ自治体の解消と職員の待遇改善を望む 永江朗

 書店のない自治体が27%という数字がよく話題になる。では、公共図書館のない市区町村は全国でどのくらいあるかご存じだろうか。

 日本図書館協会の集計によると全国815市区のうち、図書館を設置しているのは808。つまり七つの市区には図書館がない。これが町村だとどうか。自治体数は926。そのうち図書館を設置しているのは544。382の町村には公共図書館がない。全国の町村の41%には図書館がないのである(2023年)。

 図書館を設置している自治体も、必ずしも満足できる状況ではない。11月5日から3日間、横浜市で図書館総合展が開催されたが、会場で出会った図書館関係者たちからは、自治体の予算削減が続いて、資料購入や職員配置に影響が出ているという声を多く聞いた。建物の修繕や設備の更新も、自治体の財政難のため他の予算よりも後回しにされがちだという。

 公立図書館の職員の76%が非正規雇用で、低賃金かつ不安定な状態で働いている。いささか古いデータだが、日本図書館協会が2018年から19年にかけて神奈川県で行った調査によると、平均時給は996円、平均月給は13万5879円。調査時の神奈川県の最低賃金とほぼ同水準だ。85%以上が昇級もなく、90%近くはボーナスもない。交通費支給なしも17%近い。

 書店数の激減を受けて、図書館と書店の連携をという声をよく聞く。図書館総合展でも図書館サービスを手がける図書館流通センターと取次大手の日本出版販売による、図書館における新刊書販売の実証実験の開始が発表された。しかし、そもそも図書館がなければ書店と連携しようもない。

 書店と図書館とでは、扱う本の性格が違う。書店で扱うのは、刊行からあまり時間がたっていない本に限られる。本が品切れや絶版になるのは早い。それに対して図書館は古い資料も所蔵している。フローの書店、ストックの図書館と言い換えてもいいだろう。書店が図書館の役割をカバーすることは無理だ。書店を残すことも大切だが、まずは図書館ゼロ自治体の解消と公共図書館の拡充、そして職員の待遇改善を、と思う。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2024年12月10・17日合併号掲載

永江朗の出版業界事情 公共図書館ゼロ自治体の解消を望む

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