新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

国際・政治 新局面の地政学リスク

イーロン・マスク氏が左右する中国の台湾政策と米国の対中政策 遠藤誉

イーロン・マスク氏は母のメイ・マスク氏(右)とともに、中国で大きな人気を誇る(今年5月、メイ氏のSNSより)共同通信
イーロン・マスク氏は母のメイ・マスク氏(右)とともに、中国で大きな人気を誇る(今年5月、メイ氏のSNSより)共同通信

 モデルである母とともに、中国で人気を誇るイーロン・マスク氏。党とのパイプを生かし、台湾問題も左右しそうだ。

>>特集「新局面の地政学リスク」はこちら

 ドナルド・トランプ次期米大統領は、選挙運動中に「全ての国に10~20%、中国からの全輸入品に60%の関税を課す」と表明している。しかし最大のトランプ支援者となった米テスラCEOのイーロン・マスク氏は、EV(電気自動車)の上海工場で莫大(ばくだい)なビジネス権益を有しているだけでなく、習近平国家主席とも李強国務院総理(首相)とも仲がいい。果たしてトランプ氏の思惑通りに対中高関税が進むのだろうか。

 習近平氏は2015年にハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布したが、マスク氏の登場は、その戦略にピタリと当てはまった。「中国製造2025」達成を可能ならしめるためにも、テスラ上海工場をそのバネにしようとした。そこでEVに限ってだが18年に外国の企業が独資で中国に工場を建設することを特別に許可したのである。中国建国来初めてのことだ。EV製造部品のサプライチェーンは全て上海近辺にそろっていることも手伝って、テスラ上海工場は異常な生産スピードでEV製造に成功した。テスラの米工場での総生産台数が23年で計70.1万台なのに対して、上海工場での同年の生産台数は95.8万台に上り、全生産能力の半分以上を占めるに至る。テスラ上海工場建設をきっかけに、中国のEV製造も一気に成長して世界一になった。

中国愛する母メイ氏

 今ではマスク氏は習近平氏がトップを務める清華大学経済管理学院顧問委員会(海外大手企業トップが集まり中国の経済発展を支援する委員会)のメンバーの一人だ。李強氏は上海市書記だったころにテスラ上海工場建設に大いに貢献したことも評価され、のちに国務院総理に選ばれている。だからマスク氏は必要があれば気軽に李強氏とも会える。

 実はマスク氏はモデルでもある母親メイ・マスク氏をこよなく愛し尊敬しているが、彼女は中国が大好きで、上海を中心に中国各地を巡り、スターとして中国で多くのファンを引きつけており、マスク氏の心は圧倒的に中国に向いている。

 そのため23年9月13日、ロサンゼルスで開催された会合にリモートで参加したマスク氏は、「台湾は北京によって統治されるべきだ」とした上で、「その試みを、米国の太平洋艦隊が武力で阻止している」と述べた。すると翌日に台湾の外交部が激しく抗議したが、それでも懲りずに11月10日になるとマスク氏は「台湾は中国の一部であるべきで、それが実現していない唯一の理由は、米国の太平洋艦隊のためだ」と断言したのである。

 習近平氏とっての最大の核心は台湾問題なので、こんなにありがたい発言はない。

 そうでなくともトランプ氏は大統領選挙中に台湾に関して何度も「もし中国が台湾を武力攻撃したら、あなたならどう出るか?」という複数のメディアの問いに、毎回回答をはぐらかしてきたが、マスク氏がトランプ氏側に立ってからは、突然明確に意思表示するようになった。今年10月18日にトランプ氏は「中国の習近平国家主席は私(トランプ氏)を尊敬し…

残り1426文字(全文2726文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)が、今なら2ヶ月0円

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月10日・17日合併号

2025年に上がる株16 トランプ旋風は日本にチャンス 年末に日経平均4万3000円■谷道健太19 トランプ氏は防衛、金融に追い風 日経平均は4.6万円以上目指す■広木隆20 政治関連銘柄 トランプ政策で資源に強い三井物産 「103万円の壁」関連でタイミー■天海源一郎22 日本のトランプ銘柄 スズキ [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事