イラン・イスラエル報復合戦はイランの石油施設とイスラエルのガス田への攻撃を招く 高橋雅英
有料記事
イランとイスラエルの報復合戦が激化すれば、両国のエネルギー施設へ攻撃が及ぶことが懸念される。
>>特集「新局面の地政学リスク」はこちら
2023年10月に始まったガザ紛争から1年が経過したが、イスラエルと周辺諸国の武装組織との戦闘が続いている。10月1日にはイランが今年2度目となるイスラエルへの攻撃を実施し、イスラエルも同月26日にイランの軍事施設に報復攻撃するなど、中東情勢が緊迫化している。
今後の注目点は、イランによるさらなる報復の有無である。イラン最高指導者ハメネイ師は11月2日、イスラエルに対して厳しい報復に出る考えを明らかにしており、イランがイスラエル本土を再び攻撃する可能性が出てきた。
イスラエル・イラン間の報復合戦が激化すれば、イスラエルがイランの石油施設を攻撃する可能性も否定できない。エネルギー施設への攻撃は、イランにとって最大の財政収入源である石油収入を断たれるため容認できない。
イスラエルの標的は、ハールグ(Kharg)島にあるイラン最大規模の石油輸出港であると考えられる。同港はイランの原油輸出の9割を担い、イラン経済の生命線となっている。イランはイスラエルによる攻撃への懸念から、ホルムズ海峡のインド洋側に建設したジャスク(Jask)石油輸出港で原油の積み込みを開始した。ペルシャ湾内のハールグ島への依存を軽減し、ホルムズ海峡の外側で、最大の石油輸出先である中国により近いジャスク石油輸出港を活用することで、中国向けの石油輸出の継続に努めている。
中国の原油調達に影響
イスラエルが実際にイランの石油施設を攻撃すれば、国際原油価格が高騰する恐れがある。イランはこの数年、米国主導の制裁を理由に石油輸出国機構(OPEC)プラスによる協調減産の対象外であるため、産油量を拡大させてきた。24年9月の産油量は日量約332万バレルを記録し、18年の制裁再開以後、最多となった。
米エネルギー情報局(EIA)の試算によれば、23年にイランが輸出した原油全体の約9割を、中国が最終的に輸入した。中国は米国主導の対イラン制裁に同調しておらず、マレーシアなどを経由してイラン産原油を巧妙に輸入し続けている。イラン石油施設が攻撃された場合、イランによる中国への原油供給が滞り、不足分を中国が他の中東産油国に求める事態が予想され、この結果、原油価格が急上昇すると考えられる。
一方、イスラエル・イランの対立激化が、イランによるホルムズ海峡封鎖につながるリスクは現時点で低い。その背景には、イランと湾岸諸国との関係が改善に向かっていることがある。イランは対イスラエル戦線で湾岸諸国との連携を望んでおり、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などの資源輸出を妨害するような行動をあえてとることは想定し難い。
イランは石油施設への攻撃を受ければ、報復としてイスラエルのガス田施設をターゲットとする可能性がある。イスラエルは10年代に沖合のガス田開発に成功し、産ガス国としての存在感を示してきた。23年のガス生産量は24.7BCM(10億立方メートル)を記録し(図1)、うち47%の11.6…
残り1331文字(全文2631文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める