ドイツも“政権交代”か エネルギー政策は現実路線へ 熊谷徹
有料記事
2025年に総選挙を控えるドイツでは、政権交代の可能性が高まっている。ドイツ政治にとっては大転換の年になる可能性もある。
>>特集「世界経済総予測2025」はこちら
2025年はドイツ政治の転換の年になりそうだ。社会民主党(SPD)・緑の党・自由民主党(FDP)の3党連立が解消され、25年9月予定だった連邦議会選挙(総選挙)が同2月23日に前倒しされた。最大野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)主導の連立政権が樹立される可能性が強い。
政権交代が不可避とみられる理由は、オラフ・ショルツ政権の温室効果ガス(GHG)削減を優先した政策運営、難民増加や、景気対策の欠如に対する市民の強い不満だ。アレンスバッハ人口動態研究所が24年11月に発表した支持率調査によると、CDU・CSUの支持率は37%でトップだった一方、ショルツ首相率いるSPDは15%、緑の党は10%にとどまる。11月に政権離脱したFDPは4%で、連邦議会の議席を失う可能性がある。ドイツでは得票率が5%未満の政党は議席を持てない。
急速な脱炭素に嫌気
政権が発足した22年1月以降の政党支持率の推移をみると、連立政権への市民の不満の高まりがはっきり表れる。緑の党の支持率は22年6月には22%に達したが、現在は半減した。SPDも22年4月には28%あったが、現在では13ポイントも減った。緑の党が支持を大きく失った理由は「GHG削減の政策は絶対的に正しいのだから、市民は従って当然」という「上から目線」で、市民に十分な説明をしないまま、脱炭素化を短期間で進めようとしたことだ。
緑の党に属する、ハーベック経済・気候保護相は「建物エネルギー法」を改正し、24年1月以降に設置する暖房設備についてはエネルギー源の65%を再生可能エネルギーにすることを強制しようとした。だが市民の強い反対を招き、4年間延期された。
政策の朝令暮改も目立った。ドイツ政府は20年にバッテリーEV(電気自動車、BEV)などを購入する消費者のための政府補助金を倍増させ、BEVブームを生んだ。だが23年11月に連邦憲法裁判所が、過去の予算措置について違憲判決を下したため、600億ユーロ(約9兆4000億円)の予算が無効になった。このため政府は、エネルギー転換などに関する歳出の大幅削減を迫られ、23年12月にBEVの政府補助金を突然廃止した。この結果、BEVの販売台数は激減し、フォルクスワーゲンなど多くの自動車メーカーが、生産能力過剰に苦しんでいる。
22年のロシアのウクライナ侵攻後、ドイツでは電力価格が高騰し、一部の電力会社は市民に「電力料金を2倍に引き上げる」と通告した。だがショルツ政権は、エムスラント原子力発電所など最後に残った3基の原発を止める計画に固執した。CDU・CSUとFDPは電力の安定供給のため、3基の運転を続けるべきだと主張した。同8月の世論調査でも、国民の8割が運転継続を望んだ。しかし政府は、運転期間の大幅延長を拒否し、3基を23年4月に廃止した。
この結果、「与党離れ」が加速するとともに、多くの有権者が極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)や極左政党ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)の元へ走った。24年9月に旧東独テューリンゲン州であった州議会選挙では、AfDの得票率は32・8%で初めて首位に立った。
現在の世論調査では25年2月の総選挙で、CDU・CSU主導の連立政権が誕生し、CDUのフリードリヒ・メルツ党首が首相になる公算が大きい。連立相手はSPDが有力だ。これらの政党支持率は合計52%で過半数を超…
残り1424文字(全文2924文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める