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発行秒読み「デジタル人民元」 ドルに波及する通貨インフラ革新=山岡浩巳
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中国の通貨「人民元」をデジタル化する計画が大詰めを迎えている。試験運用中の「デジタル人民元」は、北京冬季五輪の会場でも試験的流通が行われるため、報道もさらに増えるだろう。
もっとも、中国の人々は既に、「アリペイ」や「ウィーチャットペイ」などのデジタル決済を日々使っている。巨大企業が提供するこれらのサービスは、決済に加えネット通販や各種チケットの予約など生活全般をカバーしている。このため、人々がこれらを使うのをやめてまで、サービスの範囲がより狭いデジタル人民元にシフトする動きはあまり進んでいないようだ。
この間、米国の中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)は1月に「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」に関する報告書を公表し、市中からの意見を求めている。この報告書は、米国がCBDCを発行するかどうかは未定としたうえで、そのメリット、デメリットをバランスよく記述している。
CBDCを巡る各国の取り組みは、今後の通貨制度を展望する上で重要な示唆を与えてくれる。
現代通貨制度は19世紀、国民国家が確立され、通貨の信用を支える法制度や徴税権などのインフラが整備された段階で、ほぼいっせいに形成された。この枠組みのもと、国家を背景とする通貨は同時に、価格機能を通じて市場経済を動かす原動力にもなってきた。
現代通貨制度は、現金などベースマネーの発行を一元的に担う中央銀行と、預金通貨を提供する民間銀行という2層構造からなる。この仕組みは多くの利点を持ち、20世紀には世界中に広がった。まず、国内の通貨単位が統一され、人々が複数の通貨の換算に煩わされずに済む。これは、銀行規制や預金保険により預金の安全性が確保され、現金と預金が1対1で交換できることが前提となる。また、銀行は預金を貸し出しなどの金融仲介に充てることができ、民間主導の効率的な資金配分に貢献できる。
さらに、民間によるイノベーションも促せる。実際、電子送金やATMなど多くのイノベーションが民間主導で進められてきた。加えて、人々の日常取引に関するデータを国や中央銀行が独占せずに済む。
現代通貨制度への挑戦者
しかし今世紀に入り、このような2層型の現代通貨制度にチャレンジする動きが次々と起こっている。
まず、2009年に登場したビットコインを端緒とする暗号資産(仮想通貨)がある。ただ、価値変動が激しく、国の外側で信用を構築するための電力消費などのコストも大きい暗号資産については、現代通貨制度を脅かすには至らないとの認識も広がった。
また、ノンバンク、とりわけ「ビッグテック」と呼ばれる巨大企業が大挙してデジタル決済に参入した。中国アリババグループのアリペイとテンセントグループのウィーチャットペイは、ユーザー数では世界最大規模の決済インフラに成長した。
さらに、メタ(旧フェイスブック)が主導したステーブルコイン(価値安定を図…
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週刊エコノミスト
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