プーチン、スターリンを支持するロシア国民 独裁者でなければ統治できない歴史的大国の構図 沼野充義・ロシア文学者=後編
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欧米や日本のスターリン像はロシアでは全く正反対だ。高いスターリン評価と大国ロシア復活を目指す持つプーチン大統領への支持の背景をロシア文学の第一人者、沼野充義氏に聞いた。(聞き手=桑子かつ代・編集部)>>>前編はこちら
スターリン礼賛復活
―― プーチン政権下の20年間、過去の独裁者スターリンを評価する動きが広がっている。
沼野 ロシアの非国営独立系会社がロシア人に対して「人類の歴史上で一番偉いと思う人は誰か」という世論調査をしている。直近の21年5月実施で、1位がスターリンの39%、2位レーニン30%、3位プーシキン23%、4位ピョートル大帝19%、5位プーチン15%だ。
ロシアらしく面白いのは、この中に詩人のプーシキンがいることだ。織田信長と並んで夏目漱石が入っているようなものだ。ドストエフスキーやトルストイではなくて、プーシキンということからは、ロシアが詩を非常に大事にする国だということが分かる。
―― スターリンはロシア人を弾圧し、粛正した。
沼野 欧米や日本では、一般的にスターリンはヒトラーと並ぶ20世紀最大の極悪非道な独裁者といったイメージで捉えられているが、現在のロシアでは捉え方が全く違っている。85~91年のペレストロイカ(改革)期にはスターリン批判が行われたが、批判の中心にいたのは知識人だけで、ロシア人大衆や愛国的な一般のロシア人には関係のないことだった。
実際、その後のロシア国内での世論調査の結果をみると、スターリンの権威は目覚ましい勢いで復活していることに驚かされる。彼らは、第二次世界大戦を連合国の勝利に導いたのはソ連であり、人類への大きな貢献だとして誇りに思っている。
最大の罵り「ファシスト」
―― ウクライナ現政権をナチス化と呼んでいる。
沼野 歴史的背景から現代のロシアではいまだに「ファシスト」とか「ナチス・ドイツ」といった言い方が、最大の罵り言葉になる。プーチン氏はそれを利用して、ウクライナをナチス政権やネオファシスト集団と決めつけ、ウクライナをナチズムから解放すると主張している訳だ。
確かに、現在のウクライナの極右民族主義者の中には一部ネオナチ的と見なされ得る人たちも混じっているが、現在のゼレンスキー政権をナチス集団と呼ぶのはほとんど無根拠だ。その振る舞いにおいて、プーチン氏とゼレンスキー氏のどちらがヒトラーに似ているのかは誰の目にも明らかであろう。
―― プーチン大統領への支持者はどのような人たちか。
沼野 年配者や年金生活者、SNSへのアクセスがない保守的な人たちだ。ロシアは米ソの冷戦時代には米国と並び立つ世界の二大大国の一つだった。その復活を願望しているロシア人は多いと思う。プーチン氏もそうだろう。一方で、若者は政府が情報を遮断してもSNSなどを駆使して外国からの情報を得る。反政権の声は庶民の間にもさらに広がり、潜在的な力になる可能性があるだろう。
二項対立で考える危うさ
―― 国際社会ではロシアへの経済制裁が強化され、孤立化が進んでいる。
沼野 ロシアのウクライナ侵攻は冷酷でひどいもので、決して許されない。一方で、ロシアとNATOについて、…
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週刊エコノミスト
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