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《相続&登記》共有者が行方不明でも土地・建物を売れる新制度=吉田修平

住宅地で放置される家屋
住宅地で放置される家屋

 民法の共有に関するルールでは、共有物の現状を維持する「保存」は各共有者が単独で行うことができるが、共有物の変更に至らない利用・改良である「管理」には共有持ち分の価格の過半数の同意、共有物の性質または形状を変える「変更」には共有者全員の同意が必要だ。

 以上は民法に明文規定があるが、共有物全体の売却などの「処分」については規定がない。処分については、同法251条の「変更」に含まれるという説、含まないという説の双方がある。ただ、いずれの立場を取るにせよ、処分は共有者全員の同意によりなされることになる。結局、すべての共有者に持ち分を譲渡してもらう必要があるからだ。

 しかし、共有者の一部が行方不明などの場合には、その者の同意を取ることができないため、土地の利用・処分が極めて困難になるという事情があった。そこで、今回の民法改正により共有ルールが大幅に見直されることになった。

 ◆想定ケース

 Xは、大型商業施設の建設計画のために、大規模に土地の買収を進めてきたが、その中のある土地・建物がA~Cの3人の共有(持ち分は3分の1ずつ)であること、Cが行方不明であることが判明した(図1)。また、その土地・建物は一帯の中心部に位置しており、買収しなければ計画が成り立たない。C以外の共有者(A・B)はXの買収に応じる意向を示している。Xは、どのようにしたらこの土地・建物を買収することができるのだろうか。

 このようなケースの場合、現行法の下では、Cが行方不明なので、家庭裁判所にCの不在者財産管理人を選任してもらい、Xは不在者財産管理人と交渉して、その同意を得て買収するしかない。なお、不在者財産管理人には弁護士や司法書士などが選任されるのが通例である。

 しかし、不在者財産管理人は行方不明者であるCの全財産の管理などを行う役割を持つため、Cの全財産を調査した上で、その管理および処分を行うことになる。このケースで問題になっている土地・建物の持ち分だけではなく、その他の不動産や動産、預金、証券、負債なども含まれる。したがって、管理のための費用がかかる。

 また、売却などの処分をするためには裁判所に特別の許可を得る必要があるため、時間もかかるし、許可を得られるかも確実ではない。

 そこで、今回の改正により、今後は以下のような対応をすることができることとなった。

 新制度1 共有持ち分の取得

 一つは、「共有持ち分の取得」による対応だ。改正法では、「共有者が他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないとき(共有者不明の場合)」は、共有者は裁判所に請求し、不明である共有者の持ち分を取得することができることとされた。

 このケースの場合は、Aが裁判所に申し立てを行い、裁判によりCの共有持ち分を取得する。Aの持ち分は3分の2になり、B(持ち分3分の1)とともにXに対して土地・建物の持ち分の全てを売却することが可能になる(図2)。

 この際、Aは、Cの持ち分の時価相当額を供託する。本来、CはAに対して、Aが取得した持ち分の時価相当額の支払いを請求することができる。しかし、Cが行方不明なので供託することになるという原理だ。

 なお、不明共有者の持ち分が相続財産に属し、共同相続人間で遺産の分割をすべき場合において、相続開始後10年が経過するまでは、以上のような裁判手続きをすることができないので注意を要する。相続の開始後10年間は、不明共有者(本ケースの場合はC)の遺産分割を行う権利を奪わないためである。

 以上の規定は、共有の借地権付き建物など、不動産の使用または収益をする権利(所有権を除く)…

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