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南アルプス横断トンネル工事で本当に「大井川は枯れる」のか?=吉村和就

リニア中央新幹線の実験線車両
リニア中央新幹線の実験線車両

リニア新幹線

 南アルプスを横断するトンネル工事で、静岡県が水の流出を懸念している。

大井川の失われる水は「微量」との指摘も=吉村和就

 JR東海が建設しているリニア中央新幹線の工事で、静岡県を流れる大井川で水不足が発生する可能性を指摘する声が上がっている問題を巡り、工事に反対する大井川流域の住民やその意向を受けた静岡県と、リニアに期待を寄せる他県の自治体首長など早期の建設を望む人々との間で溝が埋まらず、議論が平行線をたどっている。

毎秒2立方メートル減少?

 リニア中央新幹線は2037年をめどに東京・品川─大阪間の全線開通を目指す。27年には品川─名古屋間が部分開業する計画だ。全長286キロの経路は約8割がトンネルとなっている。経路は静岡県北部の南アルプスを横断する。南アルプスは大井川の水源に当たる。

 静岡県内の路線延長は10.7キロで2カ所に非常地上出口を設置する計画である。静岡県内の土被(どかぶ)り(地表面からトンネル天井までの垂直距離)は最大1400メートル(これまでの国内トンネル工事で最大の土被り)である。

 このリニアトンネル掘削によって大井川を流れる水の量が減る(減水)可能性がある。

 静岡県の川勝平太知事は、JR東海が15年にリニア新幹線の路線予定図を示した時から、「横断トンネルで大井川が枯れる」「大井川の水は静岡県民の命の水だ」と強硬に反対。「リニアの水・全量戻し」が工事開始の条件とした。

「リニアの水・全量戻し」とは何か。JR東海は13年9月、南アルプストンネル工事により大井川の河川流量が毎秒2立方メートル減少するとの推定を示した。川勝知事は「減少する毎秒2立方メートルの全量戻し」を主張、工事の着工を認めない方針を示した。

 JR東海は18年10月に「原則としてトンネル湧水の全量を大井川に流す措置を実施する」と表明した。だが、19年8月には「先進坑がつながるまでの工事期間中、山梨、長野両県へトンネル湧水が流出し、一定期間は水を戻せない」との見解を示した。

 川勝氏は22年5月12日、JR東海が4月下旬に新たに示した「リニアの水・全量戻し」案(山梨側の工事で出た水を大井川に戻すなどの方法)に対し、「具体案は検討に値する」として歩み寄る姿勢を見せたが、静岡県として最終判断は示していない。

 これまで、大井川の減水対策は、関係者、有識者会議などで過去数十回にわたる論議がなされているが、水掛け論の応酬であった。

「トンネルの湧水は一滴たりとも県外に渡さない」と主張する川勝知事に対して、「不都合な真実」を突きつけたリニア推進派もいた。不都合な真実とは、大井川の源流部にある田代ダムである。田代ダムは1928年、大井川源流部の標高1380メートル地点に建設され、ダムに蓄えられた水は、毎秒約5立方メートル静岡県から山梨県へ流出している。19年12月の静岡県議会で桜井勝郎議員が、「知事が『命の水』という大井川の水を、『一滴たりとも渡さない』と言いながら、あの田代ダムから山梨県側に流れている水も、知事の言葉を借りれば、『我々の命の水』ではないか」と問いただした。桜井氏は具体的に…

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