マンション管理組合と管理会社の不幸な歴史を繰り返さないために 香川希理
有料記事
よりよいマンション管理は本来、管理組合と管理会社が手を取り合ってこそ実現する。双方の信頼が崩れれば、結局はマンション住人にはね返る。
活路の「第三者管理方式」にもデメリット
昨今、マンション管理組合が委託先の管理会社を選別するのではなく、管理会社が管理組合からの委託依頼を断る「逆リプレース(管理会社からの契約終了)」や、組合の理事会や理事長に代わって管理を請け負う「第三者管理方式」が話題だ。だが、なぜ管理会社は逆リプレースや第三者管理方式を提案せざるを得なくなったのか。そして今後は管理組合と管理会社の関係はどうなるのか。過去の両者の関係を振り返ると、学ぶべきところがある。
「やりたい放題」時代
1950年代に分譲マンションが建築されるようになって以後、右肩上がりで分譲マンションが増加。管理会社も徐々に増えた。しかし、初期の管理会社はまさに玉石混交だった。区分所有法やその他の関係法令を適宜勉強し、適正な管理を目指す管理会社がある一方、デベロッパーから勧められるがまま地権者自身が管理会社を設立するなど、管理の知識経験がほとんどない管理会社も、一定程度存在した。
そのような管理会社の中には、ずさんな管理業務で管理組合の財産である管理費や修繕積立金を不適切に使ってしまうケースもあった。大多数の管理会社は真面目に管理業務を行うも、一部が「やりたい放題」の管理業務をしていた時代といえよう。
こうした状況の改善のため、2001年8月、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下、マンション管理適正化法)」が施行された。
主な柱は、管理業者に対する規制措置と、マンション管理士制度創設だ。
まず、管理業者の規制措置としては、業者登録、重要事項説明の義務化、財産の分別管理などが含まれ、これにより、管理会社の業務水準は底上げされ、ずさんな管理会社は減少した。
マンション管理士制度の創設も管理会社に影響を与えた。管理士やコンサルタントが、管理委託費の削減提案と、それに応じない管理会社の変更(リプレース)を積極的に進めるようになった。
その後も、管理組合が変更をちらつかせて管理委託費値下げを要求するなどの流れは続き、次第に管理会社の利益率は限界近くまで下がった。また、以前の一部の「やりたい放題」の管理会社に対するマイナスイメージから、必要以上に管理会社を疑う管理組合や区分所有者も一定数存在した。
そのような背景事情も相まって、区分所有者の管理会社に対するカスハラ(カスタマーハラスメント、客の嫌がらせ)は年々増加し、管理会社をさらに追い詰めた。例えば「なんでそんなこともできないんだ。管理会社の担当者ごときが歯向かうな」などの悪質なクレームを連日電話する理事長や区分所有者も存在した。悪質なカスハラは、担当者を休職や退職に追い込むのみならず、自死にまで至らせることもあった。
大多数は真…
残り1590文字(全文2790文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める