新型コロナウイルス 承認近づく塩野義「国産」治療薬 前田雄樹
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開発・生産で問われる日本の本気度
新型コロナウイルス感染症の「国産」の飲み薬がようやく承認されそうだ。塩野義製薬は9月28日、開発中の飲み薬「ゾコーバ」について、最終段階の第3相治験で軽症・中等症患者の症状改善を早める効果を確認したとの速報結果を発表した。最終治験は患者1821人を対象に行われ、ゾコーバを1日1回5日間服用したグループは、偽薬を服用したグループに比べ、オミクロン株に特徴的な五つの症状(鼻水・鼻詰まり、喉の痛み、せき、発熱、倦怠(けんたい)感)が改善するまでの時間が約24時間短く、体内のウイルス量も投与4日目の時点で大幅に減少した。
塩野義は今年2月、中間段階の治験結果をもとに、ゾコーバの承認申請を行っていた。中間治験では、ウイルスを減少させる効果は確認されたものの、新型コロナに特徴的な12症状(前述の5症状のほか、肺炎や関節痛など)で改善効果は認められなかった。5月創設の「緊急承認制度」に基づく承認を求めていたが、厚生労働省の審議会は7月、「中間治験のデータでは有効性が推定できない」などとして継続審議としていた。
最終治験で有効性が示されたことで、ゾコーバの承認はほぼ確実になったといえる。現状のコロナ診療を劇的に変えるほどのインパクトはないかもしれないが、重症化リスクのない患者にも投与でき、ウイルス量を早期に減らすことで隔離期間短縮や家庭内感染のリスク軽減につながるといったメリットがあり、治療薬としての意義は十分ある。塩野義は国の審査機関と最終治験の速報結果を共有しており、詳細データの提出に向け解析を急いでいる。
一方日本企業が開発したという意味での国産ワクチンの登場にはまだ時間がかかりそうだ。開発を進める塩野義、第一三共、KMバイオロジクスとも最終治験の段階で申請に至ったものはない。
塩野義は従来「今年9月末まで」としていたワクチンの申請時期を「年内」に先送りした。これまでの治験で良好な結果を得ているが、製造の準備や治験データのとりまとめに時間を要しているという。KMバイオロジクスも中間段階の治験結果で9月中に申請する方針だったが、ゾコーバのケースから同制度での承認取得はハードルが高いと判断。現在は、12月以降の申請、年度内の供給開始を目指して最終治験を進める。第一三共のワクチンも最終治験中で、追加接種で年内、初回接種で年度中の実用化を目指すが、現時点でまだ申請は行われていない。
治療薬もワクチンも、日本の製薬企業は欧米勢に対し、開発で大きく後れを取った(表)。国内初の経口抗ウイルス薬「ラゲブリオ」(米メルク)が承認されたのは約1年前、ワクチンは米ファイザー/独ビオンテック製の承認から1年半以上たっている。
特にワクチンについては「周回遅れ」とも批判される状況だ。政府は昨年6月、国産ワクチンの開発強化に向けた長期戦略を閣議決定した。同戦略に基づき、今年3月にはワクチン開発の司令塔機能を担う「先進的研究開発戦略センター(SCARDA(スカーダ))」を発足させた。国の21年度補正予算で創設した1500億円の基金(5年間)を活用し、基礎研究から実用化まで一貫して支援する。8月には先端ワクチンの研究開発拠点として東京大など5大学を指定した。
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