マーケット・金融

濃淡くっきり資産運用 NISAやiDeCoを扱わない信金も 高橋克英

 信用金庫業界には、そもそも協同組織金融機関として金融商品販売はふさわしいのか、という考え方も根強い。

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 岸田政権が「資産所得倍増プラン」を打ち出す中、人生100年時代を見据え、将来の備えとなる資産形成の重要性が高まっている。地域のシニア層や中小企業オーナーなど富裕層も多く抱える信用金庫にとっても、こうした個人顧客の多様な資産運用ニーズにいかに対応するかが重要なテーマとなっている。信金で扱う金融商品は、投資信託や個人向け国債、外貨預金などが中心だが、商品ラインアップをさらに増やす動きもある。

 多摩信金(東京都)では、大和証券が信金中央金庫と連携して開発したファンドラップ(投資一任サービス)「しんきんファンドラップ」の取り扱いを2022年5月より開始した。同商品は、ライフプランや家計状況の変化などに合わせた最適なポートフォリオ・運用計画を提案し、投資一任契約に基づく運用の実行、定期的な運用報告書を通じたフォローアップなどを行う。

 碧海信金(愛知県)では22年9月から、ニッセイアセットマネジメントのファンドラップ「へきしんゴールナビ」の提供を開始している。ライフイベントの目標ごとに金額と運用期間を設定し、最適な運用プランを提案して、顧客に代わり全自動で資産運用を行う。特に、そのうちのコンサルティングコース(店頭型)は、主に地元の法人オーナーや退職金や相続資金などを得た富裕層向けで、最低投資金額は300万円となる。

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 日本や米国の個別株や、より多種多様な投信や外国債券などの取り扱い拡充のため、大手証券会社やネット証券と金融商品仲介に関わる業務提携を結ぶ動きもある(表)。もっとも、金融商品仲介によって、個別株など多様な金融商品を提供している主な信金は全254信金のうち7信金に過ぎない。「とりあえず提携したが、積極的に誘導しているわけではない」という信金もある。

コザは投信販売停止

 多くの地方銀行が証券子会社を持ったり、金融商品仲介で提携したSBI証券と共同店舗を設立したりと、個人向けの資産運用ビジネスの拡大に積極的なのとは対照的だ。とはいえ、その積極的な営業により、高リスクの仕組み債に関する顧客とのトラブルが増えたことを金融庁が問題視し、地銀を含む金融機関の多くは、現在、仕組み債の販売を停止している。

 金融商品販売における顧客とのトラブルは、商品を替えながら繰り返されており、金融機関にとって「顧客本位の業務運営」と「持続可能な収益性」の両立は道半ばだ。この先も、顧客との金融商品販売におけるトラブルを回避すべく、審査やコンプライアンス体制の強化、より丁寧な顧客への説明に加え、金融当局への報告・対応、システムコスト、人材育成コストなどもかさむことになる。

 このため、こうしたさまざまなリスクやコストを勘案して、金融商品の販売停止を選択する信金も多い。例えば、巣鴨信金(東京都)は、11年5月より投信取引口座の新規受付を中止したほか、大阪シティ信金(大阪府)は20年9月、SBI証券の証券仲介口座の新規申し込みを一時停止した。22年10月にはコザ信金(沖縄県)が投信窓口販売業務を停止し、「今後、本業支援や経営支援に一層集中する態勢を採って」いくとしている。

 そもそも、最大手の城南信金(東京都)は「お客様本位の業務運営にかかる基…

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