法務・税務

深刻すぎる東京五輪の腐敗 綱紀粛正を促す「前門の虎・後門の狼」を組織に導入せよ 北島純

 東京五輪・パラリンピックでは電通などに関係する随意契約の詳細はいまだに公表されていない。多額の税金が支出されている以上、腐敗の隠蔽につながるような硬直的な守秘運用は許すべきではない。

腐敗防止の制度設計と運用が日本全体の重要課題に

 東京五輪・パラリンピック開催を巡る大規模な汚職事件が摘発された。巨額経費を費やして遂行された五輪という国家的催事の裏に、「構造的かつ組織的な腐敗」があったことが明らかになり、「腐敗が少ない日本」という対外イメージが大きく損なわれた。内部統制の形骸化とコンプライアンス(法令および社会規範の順守)体制の機能不全はあまりに深刻であり、再発防止体制をいかに築くかが日本社会全体の重要課題として問われている。(図の拡大はこちら)

 東京地検特捜部は2022年8月、電通専務だった高橋治之・大会組織委員会元理事を受託収賄容疑で逮捕したのを皮切りに、大会スポンサー契約締結などに関する贈収賄容疑で、出版大手KADOKAWAの会長ら計15人を逮捕・起訴した。また、11月には五輪テスト大会の運営業務受注を巡り、電通など広告代理店関係8社に対し、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で公正取引委員会と合同で家宅捜索を実施した。

 組織委の役職員は「刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」(東京五輪特措法28条)とされ、「みなし公務員」として収賄罪の主体になりうる。高橋氏は「組織委理事が『みなし公務員』にあたるとは知らなかった」と供述したと報じられているが、スポーツ分野の国際ロビイングに精通する高橋氏が「公務員と民間人の境目」を皆目知らなかったという抗弁はさすがに通用しないだろう。

 みなし公務員は民間人でありながら、収賄については公務員と同視されるグレーゾーンの双面的存在であり、今回の事件でポイントとなるのは、高橋氏が組織委の「非常勤理事」だった点である。大会組織委の定款は会長(代表理事)、専務理事、業務執行理事などの職務及び権限について規定しているが、非常勤理事の職務権限は明記されていない。

 高橋氏は古巣の電通に対する強い影響力を背景に、スポンサー選定などで便宜を図ったKADOKAWAなど5社から計1億9600万円を受け取っていたとされる。高橋元理事による一連の「事実上の影響力行使」が、みなし公務員としての職務に関連したものであり、対価としての賄賂を受領したといえるか、それともコンサルタント(民間人)としての正当な報酬を得たにすぎないのかが問題となるが、実は双方の境目は微妙だともいえる。

 高橋氏が1億9600万円を自らの会社コモンズだけでなく、電通時代の後輩に作らせた「コモンズ2」やゴルフ仲間が設立した「アミューズ」という休眠会社にわざわざ分散させて受領していたという事情や、スポンサー選定などの手続きで実質的決定権限を有していたに等しいと評価できるかといった点が、今後の公判で焦点となるだろう。

コンプライアンス溶解

 次に、五輪テスト大会事業に関する入札談合事件では、組織委が18年に実施した一般競争入札(総合評価方式)で、電通など9社と一つの共同事業体(JV)が約5億3800万円でテスト事業を落札しており、このうち8社が強制捜査を受けた。組織委に出向していた電通社員や大会運営局次長らが主導して「受注調整リスト」を作成し、メールで共有していたと報じられている。

 これが、事業者が相互に事業活動を拘束する合意を交わした結果、一定の取引分野における競争が実質的に制限される「不当な取引制限」にあたると見るか、あるいは電通が主導して他の事業者を従わせた「支配型の私的独占」にあたると見るべきか見解は分かれるが、結局のところ200億円超規模の本大会実施事業(随意契約)をにらんで、広告代理店業界を挙げての受注調整が行われていたに等しいといえるだろう。

 新型コロナウイルス禍で延期された五輪を着実に遂行するという内外のプレッシャーがあったとはいえ、許容されるものではない。公取委は22年12月、大手電力3社がカルテルを結んでいたとして計約1000億円の課徴金納付処分を通知しているが、日本の基幹的大企業におけるコンプライアンスが“溶解”している点では同列だ。

 今回の談合事件では電力カルテル事件の関西電力と同様、業界3位のADKホールディ…

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週刊エコノミスト

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