地銀を襲う金利上昇リスク 円債の評価損は1兆円超えか 伊藤彰一
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有価証券の評価損は、地銀の収益を下押しするだけでなく、配当原資の縮小にも影響する。今後の円金利の動向次第では、地銀の資本増強や再編につながる可能性もある。
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2022年の地銀の有価証券運用は、欧米の金利リスクに翻弄(ほんろう)され、外債の評価損が大きくクローズアップされた。一方、日本国債、地方債、社債などの円債の金利リスクは、長らく日本が物価が持続的に下落するデフレや低インフレ環境にあったため、あまり論点にされてこなかった。
しかし、ここにきて、日本も欧米ほどではないにしても、輸入物価上昇などによるコストプッシュ型のインフレが徐々に進んでいる。そのような中、実は22年9月末の時点で円債が評価損となった地銀は全99行中88行にのぼっていた。21年3月末は16行だったので、わずか1年半でほとんどの地銀の円債が評価損になってしまったことになる(図1)。
日銀は昨年、米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)と異なり、基本的に金融緩和を維持した。そのため円金利は、欧米の金利上昇に比べると小幅な上昇にとどまっていた。しかしそれでも、地銀99行の22年9月末時点の円債の評価損は、わずか半年で約4600億円拡大し、約6600億円の評価損となっていた。
中期ゾーンの上昇顕著
長期で運用可能な生保や年金と異なり、短期で預金が引き出される可能性もある地域金融機関の債券運用は、短期もしくは中期で運用することが定石だ。昨年3月末と9月末の年限別の金利変化をみると、10年未満の年限より、10年超の超長期の金利上昇幅が大きい(図2)。それにもかかわらず、評価損は約4600億円拡大した。10年未満の金利が相応に上昇した場合、円債の評価損は深刻なものになると想像される。
足元の円金利は、昨年12月の日銀金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)の10年金利の変動幅が拡大されたことで、各年限で9月末比プラス0.1〜0.5%ほど上昇している(図2)。地域金融機関の有価証券運用の主要年限帯である4〜8年の中期ゾーンの金利が上昇している。直近の地銀99行の円債の評価損は、おそらく昨年9月末の倍くらいに悪化しているだろう。
岸田政権の進める賃上げが軌道に乗れば、企業は人件費上昇分を価格に転嫁せざるをえない。そうなれば日本でもインフレが常態化する可能性があり、足元以上に円金利が上昇するリスクがないとは言い切れない。地域金融機関は、そのリスクも想定して有価証券ポートフォリオをどう運用していくべきか検討すべき時期にきている。
債券の評価損は、…
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週刊エコノミスト
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