米欧はどう動く? FRBもECBも引き締め継続へ 井上哲也
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米欧中銀にはインフレ長期化への警戒が強い。日本への円高・長期金利上昇圧力は後退するかもしれない。
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米国とユーロ圏の中央銀行はともに、政策金利を2023年前半に十分に引き締め的な水準まで引き上げるだけでなく、今年後半もそれを維持することが必要との考えを示している。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁の講演や議事要旨の公表を通じて明示したものだが、こうしたメッセージには一定の合理性がある。
まず、米欧ともに23年中に2%のインフレ目標を達成することは不可能とみられる点だ。4年目に入った新型コロナウイルス禍に伴う財に関する供給制約が緩和される兆しがある。1バレル=80ドル台で推移する原油価格の安定によって、米欧ともに輸入物価や生産者物価といった上流の物価にはすでに軟化の動きがみられる。それらが下流の消費者物価に波及することで、インフレ率は徐々に減速すると見込まれる。しかし、FRBとECBはともに、インフレ率が2%目標を達成するのは来年以降との見方を示している。
加えて、双方の中央銀行にとってインフレ期待(将来のインフレ率の予想)の抑制は重要な課題だ。いかなる理由であれ高インフレが2年間にわたって継続すれば、企業や家計は物価上昇が持続性があると理解し、結果として価格や賃金がスパイラル的に上昇し始める恐れがある。そうなると、インフレ期待の鎮静化のために中央銀行は極端な金融引き締めを余儀なくされ、結果として金融経済に大きな負担を招くことは、歴史の経験が示す通りである。インフレ期待の上昇を防ぐため、中央銀行が物価上昇の長期化を許容しないスタンスを示すことには意味がある。
金利、為替に上昇圧力
これに対し金融市場では、景気後退が徐々に顕在化する結果、米欧の中央銀行がともに今年中には利下げに転ずるのではないかとの期待もみられるが(図1)、その実現にはリスクも小さくない。
米国では、家計の消費が想定以上に堅調さを維持する可能性があげられる。コロナ期における巨額の財政支援によって資産内容が健全であることに加え、離職者の復帰の継続によって雇用が減速しつつも増加を続け、賃金上昇も続く下では雇用者報酬も増加を続けることが考えられる。
これらが消費の拡大を下支えし続ける可能性は排除できない。そうなると、サービス価格と賃金…
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週刊エコノミスト
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