国債の金利上昇で開いた地獄への扉 いまや“衰退途上国”ニッポン 田代秀敏
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金利がついに上昇基調に入った。異次元緩和で抑えつけてきたマーケットの反乱はこれからだ。
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「地獄への扉」が開こうとしている。
1980年からバブル期を除いて40年余り下落基調を続けてきた国債金利が2021年8月から上昇基調に転じてしまった(図1)。22年9月からは上昇ペースが加速した上に金利が長短逆転してしまい(図2)、10月からは長期国債の取引不成立が頻発しており、国債金利は制御不能に陥ることがしばしば出来している。
長期金利の指標である10年物国債金利は、21年8月4日の0.007%が、23年1月17日に日銀が定めた上限の0.5%を超え、0.512%へと73倍も上昇した。同じ期間に、8年物国債金利は0.105%から0.604%へ5.8倍上昇し、9年物国債金利は0.052%から0.598%へ11.5倍上昇した。どちらも10年物国債金利を上回っており、長短金利逆転が生じている。
さらに、20年物国債金利は同期間に0.379%から1.344%へ3.5倍上昇し、30年物国債金利は0.634%から1.546%へ2.4倍上昇し、40年物国債金利は0.723%から1.673%へ2.3倍上昇した。その結果、国債の残存期間と金利(イールド)との関係を表すイールドカーブ(利回り曲線)は、右上がりの正常な形ではなく、10年国債のところでくぼんだ、ゆがんだ形となって上方シフトした(図3)。
「取引成立せず」が頻発
かつて日銀は、預金準備率や公定歩合を調整することによって、金利を間接的に誘導した。しかし、「2%の物価上昇を起こしてデフレーションから脱却する」として、日銀が政府と一体となって量的・質的金融緩和(QQE)を発動した13年4月4日以降は、長短各種の国債を積極的に市場で買い入れることで、各年限の国債の金利を直接に押し下げ、イールドカーブ全体を低く抑え込んできた。
特にターゲットとする10年国債金利がゼロ%程度で推移するように、上限を設けず必要な金額の10年国債を買い入れてきた。さらに、16年9月21日から日銀は、満期が1年未満の短期国債の金利を上限0%の範囲に、新規発行10年満期国債(以下、10年国債)の金利を上限0.25%の範囲に、それぞれ抑え込む長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を続けてきた。
しかし、21年8月から、満期が5年から40年の各年限の国債の利回りが上昇し、22年9月16日からは10年国債金利が上限とする0.25%を超えて上昇した。9月26日からは9年国債金利が10年国債金利を逆転して上回り、財務省が10年国債を新規発行しても債券市場で買い手が現れない「取引成立せず」の事態が頻発するようになった。昨年10月には4営業日連続で、12月には5日、6日、8日、12日、19日で「取引成立せず」となった。
国債金利が低すぎる、すなわち国債価格が高すぎると市場で判断された結果、日銀は12月20日、10年国債金利の上限を0.25%から0.5%へ引き上げる実質的利上げを余儀なくされた。しかし、今年1月5日になると10年国債…
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週刊エコノミスト
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