4大監査法人で進むクライアントの選別 背景に重い“上納金” 伊藤歩
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大手監査法人がクライアントの選別を進めている。単価上昇で収入は増えるも、グローバル事務所への支払いに消える構図が見える。
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大手監査法人が、比較的規模の小さい上場企業、いわゆる中小型銘柄から撤収する動きが止まらない。
監査法人がクライアントに大幅な値上げ要求→クライアントが拒絶→監査法人が監査契約の更新を拒絶→クライアントはあわてて別の監査法人探しに奔走させられる──。
こうした流れは、もはや既定路線といっていい。決算期末が近づく中で更新拒絶を通告されたクライアントは、決算処理と次の監査法人探しに奔走させられる。大手が一斉に手を離す中、準大手以下の監査法人でも引き受けてくれるところを探すのは簡単ではない。
優良銘柄も撤収対象
日本の証券市場を支える「ニッチ」や「トップ」の優良中小型銘柄といえども例外ではない。粉飾が発覚すれば、発見できなかった監査法人の責任が問われかねないような問題銘柄ならまだしも、そんなリスクは全くない優良銘柄でも、1年間に支払う監査報酬の絶対額が大手監査法人にとって非効率な金額であれば、撤収の対象になってしまう。
4大監査法人の有限責任監査法人トーマツ(トーマツ)▽有限責任あずさ監査法人(あずさ)▽EY新日本有限責任監査法人(新日本)▽PwCあらた有限責任監査法人(あらた)における2021年度末(トーマツのみ22年5月期、それ以外の3法人は22年6月期)時点のクライアント数を調べると、トーマツが前年度末比187社減、あずさが194社減、新日本が235社減。あらただけが前年度末から27社増やした。
上場会社の監査を手掛ける監査法人のうち、有限責任形態の監査法人には、業務別のクライアント数や所属する公認会計士の人数、財務諸表などを記載した「業務及び財産状況説明書」の開示義務がある。
監査法人は監査業務に絡んで損害賠償責任を負った場合、社員(出資者の公認会計士)全員が連帯責任を負うが、有限責任形態なら賠償責任を負うのは担当の公認会計士に限定される。
4大監査法人のうち、あらたをのぞく3法人は10年7月までに有限責任形態への移行を完了。あらたは16年7月から移行した。
過去の4法人のクライアント数の推移(図1)を見ると、トーマツは15年度末、あずさは16年度末、新日本は14年度末、あらたは18年度末がピークだったことがわかる。
新日本が他の法人よりも一足早くクライアント数が減少に転じているのは、15年度に東芝の粉飾決算問題が起きてクライアント離れが起きたからだ。
金商法監査で縮減傾向
続いて「業務及び財産状況説明書」に記載がある、業務別の期末クライアント数の一覧から、クライアント数の増減推移を集計した。具体的には、上場会社やファンドなどを対象にした金融商品取引法監査(金商法監査)の監査先数▽金商法監査以外(会社法監査のみの監査先や学校法人、特殊法人など)の監査先数▽非監査業務のクライアント数──に分けて集計した(図2~4)。
明確な計画性が見てとれるのはトーマツだ。金商法監査の監査先は18年度からコンスタ…
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週刊エコノミスト
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