通常共有と遺産共有が併存する不動産の分割ルールが簡便に 稲村晃伸
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相続開始から10年たてば原則、法定相続分で遺産分割することになり、通常の共有物分割訴訟もより円滑になる。
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登記簿を見ても、その土地の本当の所有者が明確に分からない土地のことを「所有者不明土地」という。こうした土地は急速な高齢化を背景に全国で拡大している。
所有者不明土地が発生する原因の一つに、相続が何世代も重なっていく「数次相続」があるが、数次相続が発生しても、土地の登記名義を変更せずに放置していると、登記簿の記載と異なり、実際に数十人もの相続人が、その土地の権利を持つという事態が起きる。法律では「一つの物には一つの所有権が成立」が原則だが、例外的に複数の人が一つの物を所有することがあり、これを「共有」という。共有は法律の規定や契約によって生じるが、相続によっても発生する。
「法定相続分」基準に
例えば、亡くなった男性の相続人が、その妻と子2人だった場合、遺言がない限り、妻が遺産の2分の1、子2人が4分の1ずつの相続の権利(相続分)を持つ。相続によって発生した共有のことを、通常の共有と区別して「遺産共有」と呼ぶが、何世代にもわたって相続が発生した場合、一つの土地に数十人もの相続人が遺産共有状態になっていることがある。
こうした状態は遺産管理や処分を困難にしており、4月1日から施行される改正民法では、主に所有者不明土地の利用を円滑化する観点から、共有一般のルールを見直し、その合理化を図っている。
前述の例で「妻の相続分は2分の1」と述べたが、これは民法で定めている「法定相続分」である。だが、相続人の一部が被相続人(前述例では亡くなった男性)の生前に、その財産形成に寄与したり(寄与分)、被相続人が生前に相続人の一部に多額の生前贈与をしたり(特別受益)していた場合は、民法の規定通りに遺産を分与すると、かえって不公平な結果になるケースがある。
そこで、家庭裁判所を通じて遺産分割を行う場合、法定相続分をベースに、相続人の寄与分や特別受益を考慮して、遺産を分割することが多い。こうして決まった相続分を「具体的相続分」という。しかし、その相続の計算方法は複雑なため、改正民法では相続財産に共有の規定を適用する場合、具体的相続分ではなく法定相続分を基準とすることにした。
複雑な現行手続き
遺産の分割は「遺産共有の解消」となるので、家庭裁判所で遺産分割の手続きが必要となる。他方、通常の共有を解消するためには、地方裁判所で「共有物分割訴訟」を行わなければならない。だが、実際には遺産共有と通常の共有が併存する共有物は少なくない。
事例で説明しよう。
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週刊エコノミスト
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