共有者が所在不明の土地でも持ち分の取得・売却が簡単に 児玉隆晴
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4月1日施行の改正民法で大きく変わることの一つが、所在が分からない人と共有する土地の売却が簡単になることだ。
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「所有者不明土地」が問題視されるようになったが、問題は単に所有者が分からないということだけにとどまらない。次のような例を考えてみよう。
ケース1 不動産業者のA社が土地・甲を購入しようとしたところ、その土地はB・C・Dの3人が共同で購入して所有(共有)しており、Dの所在が不明で連絡が取れないことが分かった。A社はどうすれば土地・甲を購入できるか。
不動産業者がこのような土地を購入するのは著しく困難だ。Dの持ち分についてはDの同意がなければ売ることができないからだ。この点、現行民法では、BかCが、所在不明のDの財産を管理する「不在者財産管理人」(25条)の選任を裁判所に申し立て、その管理人の同意を得て土地・甲を売却する必要がある。管理人選任の費用(予納金)や手間がかかるのである。しかも、Dの持ち分を売るには裁判所の許可を得る必要があるが、裁判所が必ず売却を許可するとも言い切れない。このように、土地・甲をA社が取得するのはかなり大変だ。
そこで、4月1日施行の改正民法は、Dのような所在不明の共有者がいる場合、他の共有者のBとCは、一定の条件を満たせばDの共有持ち分を一方的に取得か売却できることとした(262条の2、262条の3)。Dが土地を単独で所有している場合は、このような一方的な取得や売却は認められない(民法では「売り・買い」は強制できない)ので、これらは共有土地について認められた例外的な制度である。
ただし、これが許されるためには、主として次の二つの要件を満たす必要がある。
一つ目は、「共有者の所在が不明である」というためには、単にDが登記簿に記載された住所にいないことを証明するだけでは不十分であることだ。つまり、「必要な調査を尽くしても不明である」ことを要する。したがって、原則として戸籍謄本や住民票などの公的書類を調査しても、なお所在が判明しないことが必要となる。
もっとも、所在が本当に不明であるかどうかは公的書類だけでは分からないことがある。例えば、Dが遠隔地での仕事のために長期間不在であるが、市区町村に転出届などを出していない場合、戸籍や住民票を調べてもDの所在が分からないことがある。そこで、改正民法は、所在不明であるかどうかは連絡が取れる親族に確認すべきものとし、それでも判明しない場合は裁判所に申し立て、所在不明であることについてチェックを受けることとした。
二つ目は、申立人が所在不明の共有者の持ち分につい…
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週刊エコノミスト
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