相続放棄された不動産の管理責任は“占有者”が負うことに 吉口直希
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相続した不動産にはさまざまな責任が生じるが、4月からは責任の範囲が限定される。
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所有者が誰なのか分からない不動産が増えている。それが4月1日施行の改正民法が成立した背景の一つだ。ある人が亡くなり、所有していた不動産を親族が相続したとしよう。その不動産の立地や形状によっては、相続人が利用するのが難しく、売りに出そうにも買い手が付きそうにないことがある。つまり、「不要不動産」だ。
そのような遺産がある場合、相続人が不動産の登記などの相続手続きをせず、放置してしまうことが多い。何世代にもわたってそのようなことが続き、登記簿に記載がある所有者は相続人の父母どころか、祖父母、曽祖父母のままということも珍しくない。現在の所有者が誰なのか、たちどころには分からないことになる。
筆者の法律事務所でも、何世代も相続をしながら相続登記をしていない不動産について、「放置し続けるとどうなるか」と質問を受けることがある。答えは次の通りだ。
不動産を所有している以上は固定資産税を毎年納める義務がある。さらに、不動産の管理不備を理由に第三者に損害が生じた時は、これを賠償する必要が生じる。例えば、管理に不備がある空き家の瓦が落下し、歩行者がそれに当たってけがをしたとする。その場合、空き家の所有者は民法が定める「工作物責任」(717条1項本文)の規定に基づき、けがをした歩行者の損害を賠償しなくてはならないことがある。
このようなリスクを免れるには、不要不動産を相続しなければいい。そうする方法として、「相続放棄」の制度がある。相続放棄をした人は、相続開始時(不要不動産を持っていた人が亡くなった時)にさかのぼって相続人ではなかったことになり、不要不動産を相続せずに済む。
しかし、注意すべき点がある。相続放棄をすれば相続人でなくなるにもかかわらず、次に述べる通り、相続不動産の管理責任を完全に免れるわけではないことだ。
3月末までの現行民法は、新たに相続人になる人が管理を始めるまでの間、相続放棄をした人は自分が所有している財産と同等に管理しなければならない旨を定めていた。…
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週刊エコノミスト
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