法務・税務

土地国庫帰属制度の創設で“負動産”を国に引き渡せる! 荒木理江

 利用・売却ができない土地の相続に悩む人は多い。これからは国に土地を引き取ってもらうことも一手になる。

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 相続などで取得した土地を手放し、国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律、以下国庫帰属法)が、今年4月27日から始まる。

 人口減少や高齢化などにより、地方を中心に、土地の所有や利用ニーズが低下しており、特に相続した土地が、誰にも利用されないまま(未利用地)、負担だけが増すいわゆる「負動産」が拡大している。例えば、国土交通省の「土地問題に関する国民の意識調査」(2021年度)では、未利用地の取得原因は「相続」が57.6%とトップで、未利用地の保有について「負担を感じていない、または感じるとは思わない」の回答は、わずか6.8%だった。

 相続を原因に望まない土地を取得した所有者の数や負担が増大するのに合わせて、土地が管理されないまま放置される管理不全が拡大している。相続された土地が将来的に「所有者不明土地」となり、管理不全となることを予防するために誕生したのが相続土地国庫帰属制度だ。

対象は原則「相続人」

 この制度を利用できるのは、原則として「相続または遺贈(遺言で財産を贈られること)によって土地を取得した相続人」だ。相続によって、①1人で土地を取得した場合でも、②複数名で土地を取得した場合(共有)でも構わない。例えば、①では母親から土地の全部を相続した子Aが、②では父親から土地を半分ずつ(共有持ち分2分の1)を相続した子B、Cが共同して制度を利用できる(図)。

 制度の利用を、相続または遺贈によって取得した場合のみに限定したのは理由がある。本来、土地の所有者は自分の意思で土地を取得した以上、その責任で管理する必要がある。後で管理が負担になったからといって、国に無条件で土地を引き取らせると、納税者である国民の負担で土地が管理されることになり、土地所有者のモラルハザードを招く可能性がある。

 これに対し、相続は親などが所有していた土地を相続の発生という事実によって取得する。前述の国交省調査が示すとおり、多くの国民の間では、相続した土地を利用せず、処分もできずに所有し続けるという負担感が増しているので、相続または遺贈による土地取得に限り、相続土地国庫帰属制度を利用できることとした。

 ただし、例外として、法人Dとその社長が共有する土地のようなケースは、社長が死亡してその子Eが相続した場合、D社とEは共同してこの制度を利用することができる(図)。この例外の理由は、Eが相続によって土地を取得したにもかかわらず、共有者が法人だと相続土地国庫帰属制度が利用できないのは不合理だからだ。

建物、担保権は不可

 相続土地国庫帰属制度を利用するための手続きの流れは、次のようなものだ。

 まず、相続により土地を取得した人(申請者)が全員で、法務大臣(窓口は対象地を管轄する法務局や地方法務局)に土地の国庫帰属を承認するよう申請する。ただし、土地に後述するような一定の事由がある場合、その申請は受け付けてもらえない。申請が受け付けられると、法務局は現地調査をするなどした上で、一定の事由がない限り、国庫帰属を承認する。承認後、申請者は土地の管理費用として10年分の負担金を国に納付し、負担金納付後に土…

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