誤解されがち黒田緩和 植田日銀も緩和の可能性大 丹治倫敦
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さまざまな金融緩和手法を導入した黒田東彦前日銀総裁。複雑で専門的な金融政策の誤解を解消しつつ振り返り、「植田新体制」を展望する。
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異次元でなかったQQE
黒田総裁体制下の金融政策、特に2013年の「量的・質的金融緩和(QQE)」導入直後から15年ごろまでの政策は一般に「異次元緩和」と評されることが多かったが、この評価はフェアなものだろうか。
まず基本的な事実を述べるとQQE導入以前の白川方明総裁体制下から、日銀は「資産買い入れ等基金(APP)」という枠組みで国債に加えてETF(上場投資信託)、REIT(リート)(不動産投資信託)などのリスク資産を幅広く購入しており、これらは黒田体制下で新たに開始された政策ではない(図1)。もちろん、13年4月以降これらの資産、特に国債の購入量が急増したことは確かであり、この点が一般にQQEが「異次元」と評されるゆえんである。
それでは、この国債大量購入は奏功したのだろうか。一般に中央銀行の国債購入の効果は、資金が民間に流出すること(「量」の効果)と、長期国債購入により長期「金利」が下がること(「質」の効果)を通じたものがある。
ところが、「量」に着目すると、「日銀が銀行に供給する資金の総量(マネタリーベース、資金供給量)」は13年以降急増したものの、「経済に出回る資金の総量(マネーサプライ、通貨供給量)には顕著な増加が見られない(図2)。これは要するに、日銀が供給した資金が銀行部門に滞留して、経済全体に十分波及しなかったということであり、このような状態で「量」が実体経済に目に見えるインパクトをもたらしたと考えるのは無理がある。
それでは、「金利」を通じたインパクトはどうか。13年のQQE導入以降の長期金利は低下トレンドを維持したが、金利の低下はそれ以前から続いており、低下スピードが加速した様子は見られない。加速したのはむしろ、16年のマイナス金利政策導入後である(図3)。
精密射撃とマシンガン乱射
なぜ国債購入量を大幅に増やしたのに、長期金利低下スピードは劇的に加速しなかったのか。一因は、日銀が国債を購入する際の入札方式の違いにある。テクニカルな話のため詳細は省くが、白川総裁時代のAPPの国債買い入れは、他よりも利回りが高い国債に買い入れが集中し、結果他と同程度まで金利が下がる(「出るくいを打つ」)形式だった。そのため購入対象である3年以下の利回り曲線(イールドカーブ)が極端に平坦(へいたん)になった。
この強力な平坦化圧力が市場メカニズムを通じて3年以上も波及することで、長期金利が「効率的に」押し下げられたのである(筆者推計によれば、APP方式国債購入量当たりの金利低下インパクトは、通常の国債購入と比較して4倍程度)。
他方、13年4月のQQE導入の際にこの方式は廃止され、通常の方式に統一されたことで上述のようなメカニズムが働かなくなり、購入量対比の金利押し下げの効率も低下した。黒田緩和は一般に「バズーカ」に例えられることが多いが、効率重視の「精密射撃」だった白川総裁時代と比較し、物量に頼った「マシンガン乱射」に例える方が、より実態に即しているのではないか。
まとめると、QQE導入後に確かに国債購入量は急拡大したが、経済全体の資金の総量は劇的に増えておらず、かつ長期金利の押し下げ効果も購入量の大きさに比して限定的であり、従来までの政策との対比で明らかに「異次元」だったとまではいえないだろう。
なお、13年前後の日本経済は比較的好調、かつ円安・株高も進行しており、結果を見れば当時の緩和効果は絶大だったのではないかという見方もあるかもしれない。一方で、当時はグローバルに欧州債務危機からの回復局面で、日本だけでなく主要国の景気は軒並みリバウンドしており、日本の景気回復も基本的にこの流れに乗ったものであった。
YCCは継続可能
また、グローバルな景気回復局面では一般に安全資産とされる円から(金融政策と無関係に)資金が流出しやすく、円安はその結果という側面がある。
もちろん、金融緩和がインパクトを増幅した面を完全に否定できるものではないが、緩和効果を考える際は割り引いて見る必要があるだろう。
逆に、黒田総裁下に導入された政策の中で過剰に批判されていると感じるのが、16年9月に導入されたYCC(イールドカーブ・コントロール)である。YCCについては、このところ継続性が限界に近づいており、早々に撤廃されるのではないかという見方が根強い。
その背景には、①国債市場の流動性低下や利回り曲線のゆがみ拡大、②日銀の国債保有量の際限ない拡大、といった副作用が日銀にとって看過できない水準に達しているという見方がある。一方で、筆者はそのような見方に懐疑的である。
まず①は、確かに債券…
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週刊エコノミスト
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