法務・税務

これでバッチリ! 空き家を持たないための六つの対策 吉口直希

 相続などによって空き家を所有してしまう人は少なくない。「持たない」「引き継がせない」ための法的対策を専門家が解説する。

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 空き家を所有し続けた場合、毎年の固定資産税などの金銭的なコストが発生することに加え、空き家を放置することによる法的な責任を負う可能性もある。例えば、所有している空き家の屋根から瓦が落ちて通行人にけがをさせた場合、空き家の所有者は民法717条の工作物責任に基づき、通行人に生じた損害を賠償しなければならない可能性がある。

 これらのリスクを負わないためにも、所有する建物を「空き家にしない」または「空き家を取得しない」ための対策をとることが必要になる。国土交通省の「空き家所有者実態調査」(2018年)によれば、空き家を取得した原因のうち最も多いのが相続(54.6%)であり(図)、まずは相続を原因とする空き家取得に対する対策をとるべきである。

 相続を原因として、所有不動産を「空き家にしない」または「空き家を取得しない」ためには、空き家所有者に相続がまだ発生していないケースと、相続がすでに発生したケースに分けて次の対策が考えられる。

対策1 相続発生前に売却 相続発生後に相続人が不動産を処分しようとしても、他の相続人と遺産分割協議がまとまるまでは単独で処分することはできない。相続人が多いケースでは遺産分割協議はすぐにはまとまらないし、相続人が少ないケースであっても、相続人が遠方に居住していたりすると、協議が速やかに行えないこともある。その結果として、遺産である不動産が空き家状態になる可能性が高くなる。 相続開始後、空き家の処分までの間に時間を要する可能性があることを考えれば、生前に不動産を売却するのも一つの方法である。生前に売却すれば、相続人は空き家になる不動産を相続しないですむ。将来施設に入所したり子どもと同居したりする予定があり、将来に空き家になることが見込まれる場合は、売却が選択肢に入ってくる。 なお、建物所有者が重い認知症などであれば売買契約はできないが、症状が悪化する前に建物所有者と任意後見契約(認知状態が悪化する前にあらかじめ後見人となる者を決めておく契約)を締結して子どもなどが任意後見人候補者になっていれば、本人が意思能力を失った場合でも子どもが任意後見人として売却することが可能になる。 また、任意後見契約を締結していなかったとしても、成年後見の申し立てを行って子が後見人に就任すれば、後見人として売却することが可能になる。

対策2 国庫帰属の利用準備 今年4月から相続土地国庫帰属法が施行され、相続によって取得した土地は一定の条件を満たせば国に所有権を移すことが可能となった。ただ、この制度を利用できるのは、相続によって土地を取得した場合に限られているため、相続前には利用することができない。また、制度上、相続後は土地を相続した人全員で申請する必要があり、遺産分割に時間がかかれば相続人はその間も制度を利用できない。 この点を踏まえ、相続人が将来速やかに制度を利用できるよう、生前から準備することが考えられる。不要な土地を国庫に移すには、例えば土地上に建物がないことや、隣地との境界が明らかになっていることが必要である。そのため、建物の解体作業を進めたり、測量を行って境界を確定させるといった準備をする。その後、遺言書などで土地の所有者を1人に指定すれば、相続人が制度を利用して最終的に国庫に帰属させられる。 生前から制度の利用を準備するうえでの注意点の一つ目が、生前に建物を解体して更地にした場合、住宅用地の固定資産税を軽減する特例が外れ、税務上の負担が増すことである。この点を踏まえると、生前準備の選択肢に入ってくるのは、もともと固定資産税が安い土地である場合か、固定資産税の増…

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