区分所有法改正へ マンション管理・再生を後押し 荒木理江
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マンションの管理組合が意思決定する際、4分の3以上の賛成といった要件が必要だったが、大きく見直されることになりそうだ。改正試案のポイントを押さえておきたい。
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区分所有法はマンションを巡る基本的な権利・義務関係などを定めているが、建物の老朽化と区分所有者の高齢化という“二つの老い”に対処しきれていない課題が浮き彫りとなっている。そこで昨年9月、法務省の法制審議会に「区分所有法制部会」が設置され、今年6月には「区分所有法制の改正に関する中間試案」が取りまとめられた(パブリックコメントは今年9月3日まで)。
中間試案は、①区分所有建物の管理の円滑化、②区分所有建物の再生の円滑化、③被災区分所有建物の再生の円滑化──の三つの柱で構成されており、ここでは①と②の概要を説明する。なお、区分所有建物には商業ビルなども含まれるが、本稿では単に「マンション」と呼ぶ。
①のマンション管理の円滑化の方策として、一つ目に挙げられているのが「集会決議の円滑化」である。現行の区分所有法では少なくとも年1回、区分所有者全員が参加する集会(管理組合の総会)を開かなければならないが、この集会で決議が成立するには、区分所有者と議決権双方の総数を母数として、過半数や4分の3以上などの多数決割合を満たす必要がある。
ところが、所在不明な区分所有者がいると、反対票として扱われるため、規約改正などマンションの維持管理に必要な決議が成立せず、円滑な管理が阻害される。そこで、裁判所の関与のもと、所在不明区分所有者を決議の母数から除外する仕組みが提案されている。また、管理に無関心で集会に参加しない区分所有者が一定数いることを踏まえ、普通決議などについて出席者多数による決議を可能とする仕組みも提案されている。
「所在不明」にも対応
方策の二つ目は、「マンション管理に特化した財産管理制度」である。今年4月施行の改正民法では、建物の所有者が分からなかったり所有者が管理を怠ったりしている場合に、裁判所が管理人を選任する「所有者不明建物管理制度」と「管理不全建物管理制度」が創設された。ただ、基本的には特定の所有者不明・管理不全建物の維持・管理を目的とした制度であり、区分所有法で建物の権利関係に特殊なルールを定めているマンションには利用できない。
しかし、マンションの専有部分(居室)の所有者が所在不明であったり、共用部分(エレベーターホール、共用廊下やベランダなど)に大量のゴミなどが放置されると、適切な管理が困難となる。そこで、所在不明区分所有者の専有部分に特化した財産管理制度、管理不全状態にある専有部分や共用部分の管理に特化した財産管理制度の創設が提案されている。
方策の三つ目は、「専有部分の管理の円滑化」である。一例として、給排水管などのライフラインを経年劣化によって更新する時、専有部分の工事も併せて必要になる場合がある。ところが、多数決によって専有部分の工事も可能かについては、現行法には定めがない。そこで、専有部分の工事を伴うライフラインなどの全面更新を一定の多数決で実施できる仕組みが検討されている。
また、国際化の進展や投資用マンションの増加などにより、区分所有者が国外居住者となっていることも多い。国外居住者の連絡先が不明になると、その探索に時間と手間を要することが多くなり、管理費徴収などに支障が生じる可能性も高まる。そこで、区分所有者が国外居住者の場合、専有部分管理のための国内管理人を選任する仕組みが検討されている。
方策の四つ目は、…
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週刊エコノミスト
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