私が考える一手「10月会合でYCCから時間軸政策へ」山川哲史・バークレイズ証券チーフエコノミスト
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日銀は、7月の金融政策決定会合において、「長短金利操作(YCC)」を修正、実質的に長期金利に対する許容変動幅を拡大、その上限を1.0%まで引き上げた。日銀は同措置の背景につき、消費者物価指数(CPI)上昇率が上振れする場合に備えた「予防的措置」と説明しているが、実際には会合時点における円安圧力に対する懸念も政策修正の契機となったものとみられる。ただし、米連邦準備制度理事会(FRB)を中心とした主要海外中央銀行が「タカ派(利上げに前向き)」的なバイアスを維持するなか、日銀がYCCに固執することによる、円安圧力を伴う為替変動などの副作用は、今回のYCC修正後も持続している。
日銀は今回の修正を端緒に、中長期的な「正常化」に向け段階的に金融政策調整を進める見通しだ。より具体的には、次回「展望リポート」が公表される10月会合でYCCを事実上撤廃、代替的な金融緩和の枠組みとして位置付けられる「時間軸政策」へと移行することが予想される(第I段階)。
時間軸政策とは、「マイナス金利政策」を基軸とした低金利政策を相当期間維持することを市場に「確約」することで、長期金利上昇を抑制する政策を指す。YCCと時間軸政策は、長期金利の低位安定を通じ物価安定目標を達成する点で共通している。ただしその手段は、前者が国債買い切りオペ(市場操作)を通じ国債需給に直接介入するのに対し、後者は市場参加者の政策金利経路に対する期待を通じ長期金利を制御する手法を取る点で異なっている。時間軸政策はより柔軟で持続可能性が高く、YCCが潜在的にはらむ市場の流動性低下、円金利イールドカーブ(利回り曲線)形成におけるゆがみなどの副作用が限定的にとどまる点で優位性が高い。
来年4月ゼロ金利政策へ
日銀は時間軸政策を一定期間維持した後、来年4月会合において世界景気の軟着陸、「春闘」賃上げ交渉結果などを確認したうえでマイナス金利政策を解消し、「ゼロ金利政策」へと復帰(第Ⅱ段階)、さらに来年7月会合以降は、「中立」金利水準(0.5〜1.0%)に向け緩やかな利上げへと転じる見通しだ(第Ⅲ段階)。
この間、最終局面における利上げペー…
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週刊エコノミスト
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