週刊エコノミスト Online 関西万博
開幕危ぶまれる大阪・関西万博 木下功
有料記事
「デザインの簡素化や簡単な工法への切り替え」などで万博協会は2025年4月の開幕に間に合うとするが、建設業界からは協会の調整力不足を指摘する声が上がる。
現場で残業となれば、かすむ「いのち輝く未来社会のデザイン」
開幕まで1年半ほどに迫った「2025年大阪・関西万博」。建設業界の人手不足や建築資材の高騰、会場へのアクセス不足などにより、開幕までのパビリオン完成さえ危ぶまれる工期遅れ、会場建設費のさらなる膨張の懸念が強まっている。万博誘致を推進してきた政府、大阪府・大阪市、経済界は「開幕延期は考えていない」と口をそろえるが、労働法制の適用除外まで取り沙汰される切羽詰まった状況だ。
「いのち輝く未来社会のデザイン」という万博のテーマや「持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献」といった原点を見失えば、日本、大阪の信用に傷がつきかねない事態に陥っている。
現時点での最大の課題は工期。日本建設業連合会の宮本洋一会長(清水建設会長)は6月22日の記者会見で、発注前の海外パビリオンでは設計段階にも進めていないとし、「本当に間に合うのか」と疑問を投げかけた。背景には、会場の夢洲(ゆめしま)が大阪湾に浮かぶ人工島で建築資材を運ぶ道路が2本しかなく、工事が本格化すればアクセスルート不足が大きな足かせになることがある。
建て売り方式か延期か
万博の運営主体である日本国際博覧会協会(万博協会)は大阪市内で8月7日、建設事業者などに向けて準備状況の説明会を実施。参加者によると、海外から参加する国・地域が独自に設計・建設するパビリオン「タイプA」の60カ国について、建設事業者が決定しているのは6カ国と1割にとどまっており、積極的に受注するよう求められたという。海外パビリオンにはタイプAの他に協会が建てた施設を利用する「タイプB」、協会が建てた施設を複数国で共同使用する「タイプC」がある。
参加国・地域に対しての説明会は7月7日にオンラインで開催。協会は海外パビリオンの建設作業の促進策として、参加国に代わって建設業者への発注を代行する案やパビリオンのデザインの簡素化などを提案。石毛博行事務総長は7月13日に会見し、「年末までに着工すれば開幕に間に合う」との認識を示した。
開幕時期の延期については、協会の副会長を務める関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)と大阪府の吉村洋文知事も「やれるようにスケジュールを組み替えていったらいい」(松本会長)、「遅らせる判断は、僕はない」(吉村知事)などと7月18日、19日の記者会見でそれぞれ強く否定。吉村知事は7月26日の記者会見ではタイプAに固執すべきではないとし「客観的に工期も含めて分析し、あるべきスタイルを8月中に考え、意思疎通もしていくべきだ」と指摘した。協会がタイプAを予定している国に提案している建設代行や簡素化に対する回答を、8月中に求めていることが念頭にある。
一方、実際に工事にあたる建設業界の見方はもっと厳しい。「関西に多くの工事があり、これ以上マンパワーがない。ぐたぐたになっている万博に前向きにはなれない」と話すのは説明会に…
残り1315文字(全文2615文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める