国税庁の評価通達「総則6項」 行き過ぎ節税抑止へ増える発動件数 遠藤純一
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国税庁の定める財産の評価方法にのっとって相続税を申告しても、税務署が認めない場合がある。
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相続税・贈与税の申告で、注視しておきたいのが国税庁による「財産評価基本通達」(評価通達)総則6項の発動動向だ。評価通達は相続税・贈与税の申告の際、相続・贈与した財産の金銭価値の評価方法を定めているが、この評価方法に沿うことがかえって著しく不適当になる場合を想定し、例外的に異なる評価方法で財産を評価する仕組みを定めている。これが総則6項だ。
相続税法では不動産や株式などの相続財産を「時価」で評価するとしているが(22条)、相続財産は容易に時価評価できるものばかりでなく、また何をもって「時価」とするかで争いが生じやすい。そこで、評価通達は納税者の公平性を担保して負担を軽くするため、不動産や株式などさまざまな財産の評価方法を画一的に定めている。また、その評価の水準も通常、市場で取引される価格より低く設定されている。
ところが、評価通達の評価方法にのっとって相続税を申告しても、国税庁が「この通達の定めによって評価することが著しく不適当」と判断した場合、総則6項に基づき異なる評価方法で財産を再評価したうえで、申告漏れを指摘して過少申告加算税などを追徴することがある。ただ、何をもって「著しく不適当」と判断するのか、具体的な基準は明確でない。この点で、大きな注目を集めたのが昨年4月の最高裁判決だった。
最高裁判決では、具体的な発動基準が不明確な中でも、総則6項を適用して追徴課税した国税庁の処分を「適法」とした。また、具体的な基準が明確でなくとも、総則6項の適用が「適法」となるための考え方を明らかにしている。その要点は、どれほど評価通達にのっとって相続税を申告したとしても、「実質的な租税負担の公平に反する」場合には、総則6項の発動が認められるとしたことだ。
「合理的な理由」が必要
最高裁で争われた事案では、94歳で亡くなった被相続人が相続発生の数年前、10億円以上の借り入れを基に東京都内などに賃貸住宅2棟を購入し、相続人は評価通達の評価方法に沿って相続税をゼロとして申告した。そのうち5億5000万円で購入した1棟について、相続人が相続後、5億1500万円で売却したことも明らかになっている。
国税庁はこの申告に対し、総則6項を適用してマンション2棟を独自の鑑定評価によって再評価。相続人に対して申告漏れを指摘し、過少申告加算税も課している。この国税庁の処分に対して相続人側は、総則6項の適用基準が明確でなく、評価通達にのっとって申告したにもかかわらず、特定の納税者にのみ総則6項を適用するのは、法に基づき課税する租税法律主義に反するなどとして処分の取り消しを求めていた。
最高裁は判決で、国税側が特定の納税者にのみ評価通達によらない評価額を適用することは、「合理的な理由」がない限り平等原則に違反すると指摘したうえで、評価通達による画一的な評価の結果、「実質的な租税負担の公平に反する」事情がある場合は「合理的な理由」に当たるとした。また、単に評価通達による評…
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週刊エコノミスト
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