週刊エコノミスト Online 学者が斬る・視点争点

転入超で独り勝ち続く東京 松浦司

 新型コロナで「テレワーク」が拡大したが、都市部の転出入に与えた影響は限定的だった。

大都市集中は東西日本で差

 2020年年初から23年5月の「5類感染症」への移行まで続いた新型コロナのパンデミック(世界的大流行)期には、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が推進されることによってテレワークが普及し、地方移住の関心が高まることで、コロナ以降も東京一極集中の緩和を期待する声も強かった。政府も緩和を目指して、「地方創生」や「デジタル田園都市国家構想」を実現するために、特命担当大臣を任命して政策を推進している。

 今回は地域間の人口移動に注目して、パンデミックは人々の行動様式に不可逆的な変化をもたらしたのかについて考察したい。その際に、パンデミック前後だけでなく、バブル崩壊以降の「失われた30年」期の人口移動を取り上げる。さらに、東京とそれ以外、大都市と中小都市の間だけでなく、大都市間でも地域による人口移動の特徴に違いがあることにも着目したい。

 東京23区はこの期間に大きな転入超過数の変化を経験している。1990年代中盤までは転出超過傾向であった。バブルは崩壊したものの、依然として住宅価格は高く、結婚して子どもを持つようになると東京近郊で家を購入することによって23区から転出していた。しかし、90年代中盤から2000年代後半までは転入傾向が強まり、07年には転入超過数が8万人近くとなった。リーマン・ショック期には転入超過数が4万人弱まで落ち込んだが、リーマン・ショック以降は再び転入超過傾向が強まった。コロナにより21年には転出超過となったが、22年には一転して転入超過となった。このように、バブル崩壊以降はリーマン・ショックやパンデミックによって、一時的に転入超過傾向が弱まったりすることはあるが、安定的に転入超過傾向が観察される。

大阪市は転入超過

 図は東京23区以外の主な大都市の転入超過数の推移を示したものである。大都市のそれぞれに傾向の違いがある。大阪市は阪神・淡路大震災のショックによる95年を例外として一貫して転出超過であった。00年以降は転入超過の傾向を強めており、20年には1万7000人の転入超過であった。21年は転入超過が1万人を割り込んだが、22年には転入超過傾向を強めた。

 福岡市は安定的に転入超過傾向であり、近年ではやや転入超過の傾向を強めている。札幌市は年によって変動はあるものの転入超過数が1万人前後で推移している。横浜市は00年代前半には転入超過数が2万人を超えていたが、近年では1万人前後となっている。

 名古屋市は02年以降、10年を除いて一貫して転入超過である。逆に北九州市は11年を除いて89年以降一貫して転出超過であり、浜松市は12年、静岡市と堺市は13年、神戸市は14年、京都市は17年、広島市は19年以降、転出超過となっている。一方、熊本市は21年以降、転入超過となっている。

 西日本では大阪市と福岡市、近年の熊本市以外は大都市であっても転出超過傾向が目立つ。逆に東日本では札幌市、仙台市だけでなく、横浜市、千葉市、川崎市なども10年以降、パンデミック期を含めて、一貫して転入超過となっている。本連載の前回では特に東北地方での転出傾向が10年代に顕著になっていることを論じたが、それにもかかわらず、札幌市や仙台市で転入超過傾向が一貫して見られる。つまり、北海道、東北地方、関東地方では大都市への転入傾向が強まっていることがわかる。これに対して、西日本の多くの大都市では転出傾向が強まっているという違いも確認された。

 次に大都市だけでなく、人…

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