GDPの精度左右する1次統計 田原慎二
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さまざまな統計や資料を組み合わせて作成されるGDP統計。正確さの鍵を握るのは1次統計の調査だ。
正確さを損なう調査回答拒否
国内総生産(GDP)は、ある期間に国内で生み出されたすべての財・サービスの付加価値を合計したものである。この定義に従うと、GDPを計算するためには文字通りすべての生産活動を把握する必要があるということになる。しかし、我々が普段生活していてGDP統計のための調査に遭遇することはあまりない。
では、GDPは実際にどうやって計算されているのだろうか。今回は我々が普段の生活の中で行う生産活動や消費活動が、どのような過程を経てGDPに反映されるかについて解説し、精度を左右する要因について考えてみたい。
経済統計は1次統計と2次統計に分かれる。1次統計は集めたデータをそのまま集計して公表する統計であり、国勢調査や経済センサスなどが該当する。一方、2次統計は1次統計やその他の資料を基にして作成された2次的な統計であり、加工統計とも呼ばれる。GDP統計は代表的な加工統計である。
GDP統計は加工統計であるため、これを作成するための直接的な調査は存在しておらず、国勢調査や経済センサスに代表されるさまざまな統計や資料を組み合わせて作成されている。このため、1次統計とGDP統計の公表値は隔絶しており、両者のつながりを確認することは容易ではない。
しかし、部分的にではあるが、つながりを確認することができる。GDP統計のうち財・サービスの生産額は産業連関表に主に基づいている。産業連関表は財・サービスの費用構造と販売構造を一つの表にまとめたものであり、そこからGDPに相当する数字を読み取ることもできる。産業連関表も加工統計であるが、いくつかの箇所では1次統計の数字がそのまま使用されている。乗用車の生産額を例にして、1次統計と加工統計のつながりを説明してみたい。
「しつこい」確認のワケ
日本における乗用車の生産額を調査している統計として、経済産業省が実施する生産動態統計がある。自動車産業は寡占産業であるため、国内で乗用車を生産している事業所は限られており、国内のすべての生産台数を把握することが可能である。生産動態統計の年報によれば、2015年の乗用車生産額は軽自動車、小型自動車、普通自動車の合計で15兆9789.5億円となっている(表)。
続いて、産業連関表の公表値を確認してみる。日本の産業連関表は数百分類で作成されているが、生産額についてはより詳細な数千品目にわたる値が公表されている。2015年産業連関表の公表値をみると、乗用車の生産額は15兆9883・4億円となっており、仕掛品在庫(半製品及び仕掛品)の部分を除くと生産動態統計の公表値と一致する。
生産動態統計を起点とした乗用車の生産額は、産業連関表を経てGDP統計に取り込まれる。その際、在庫の価値を期中平均価格に調整する処理を行うため、そのままの値ではないがごく近い値で反映されている。GDP統計の公表値では産業分類が「輸送機械」にまで統合されているので、乗用車の値を確認することはできないが、1次統計に基づく値が確かに計上されているのである。GDP統計はこうした作業を全産業について行うことで作成されている。
GDP統計がこのように作成されているとすれば、1次統計の正確さがGDPの精度を左右することになる。1次統計を正確に作成するためには、まず調査の回収率を上げる必要がある。調査の対象から回答が得られた割合を回収率という。回収率が低ければその分だけ漏れがあることになる。配布した調査票の回収率をできるだけ1…
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週刊エコノミスト
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