事業承継税制による納税猶予 ジャニーズ前社長も利用したが退任で帳消しに 板倉京
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事業承継税制は代表者を退任したりすると、相続・贈与税の猶予措置が打ち切られる。
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「SMILE−UP.(スマイルアップ)」(旧ジャニーズ事務所)の創業者、故ジャニー喜多川氏による性加害問題が追及される過程で、ジャニー氏のめいで前社長の藤島ジュリー景子氏が事業を引き継ぐ際、「事業承継税制」を活用して相続税の納税を猶予されていたことが明らかになった。ただ、問題を受けてジュリー氏は社長を退任したため、猶予措置の打ち切りによって納税の必要が生じた。
そもそも事業承継税制は、中小企業のオーナーから後継者が株式を相続や生前贈与で引き継ぐ際、納めるべき相続税や贈与税の納税を猶予・免除する措置だ。後継者がその後も会社の代表者であり続けることなどが条件で、後継者難による中小企業の廃業を防ぐ狙いがある。
中小企業の株式は通常、市場で売買されることはなく、現金化も容易ではない。しかし、業績が好調だったり、多額の資産を持っている場合、会社の株式の相続税評価額は驚くほど高額になることがある。その結果、株式を贈与されたり、相続したりすると贈与税や相続税も多額になるが、後継者が納税資金を持っていなければ、とたんに資金繰りに窮することになる。
そこで、政府は2009年、一定の要件を満たせば中小企業の株式にかかる相続税の80%、贈与税全額の納税を猶予・免除する事業承継税制を導入した。その後、18年に要件を大幅に緩和し、相続税・贈与税を全額猶予・免除とする特例措置も設けた。なお、特例措置は27年末までの10年間の時限措置となっている。ジャニー氏は19年に亡くなっているため、おそらく特例措置を使うことができたのだろう。
代表退任で猶予打ち切り
旧ジャニーズ事務所は売り上げ規模が相当程度大きかったとみられるが、中小企業向けの事業承継税制を利用できたのはなぜなのか。
事業承継税制を適用する一定の要件のうち、中小企業の範囲は業種別に資本金または従業員数によって定められており、卸売業は資本金1億円以下または従業員数100人以下、サービス業は資本金5000万円以下または従業員数100人以下などとなっている。このいずれかに該当すればよく、旧ジャニーズ事務所はサービス業で資本金1000万円だったため、中小企業として事業承継税制を利用することができた。
ただし、後継者が事業を引き継いだ後…
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週刊エコノミスト
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