マーケット・金融

実は米国のインフレ期待は高く、実体経済も市場予想より強い 重見吉徳

年初から好調な米国株(ニューヨーク) Bloomberg
年初から好調な米国株(ニューヨーク) Bloomberg

 インフレは鈍化して米国は利下げに向かうとの予想が年初から世界の資産市場を押し上げているが、本当にそうだろうか。

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 2023年の終盤以降、世界の資産市場は浮揚している。その主たる背景は「米国のインフレが鈍化する」との見通しであり、これと整合性を持つ「米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ」の観測であろう。

 昨年12月に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者による政策金利見通し(中央値)によれば、FRBは年内に0.75%の利下げを予見している。他方の金融市場は、年初以降のフェデラルファンド金利先物市場によれば、年内に1.25~1.50%程度の利下げを織り込んでいる。

 仮に、FRBや金融市場の想定よりも、インフレ期待が高かったり、実体経済が強かったりして、米国の実際のインフレ率が上振れする場合には、金利が上昇して資産市場は調整色を帯びるだろう。もちろん、これとは反対に、米国経済が景気後退に向かうことで資産市場が調整するリスクも排除できないが、本稿では、上振れリスクについて検討してみたい。

高い粘着価格CPI

 まず、インフレ期待や物価動向について確認していこう。

 確かに、米国のインフレ率は「前年同月比」で測ると急速に鈍化している。他方で、足元のトレンドを捕捉するために、国内総生産(GDP)統計に似せるように「3カ月移動平均」の「3カ月前比」をとると、図1に示すとおり足元のインフレ圧力は残っているようにみえる。

 ここではアトランタ連銀が算出する「粘着価格CPI(消費者物価指数)」を使っている。粘着価格CPIは、CPI算出対象品目のうち、価格改定頻度が低い品目を集めた消費者物価指数である。

 たとえば、電車の運賃やメディアの定期購読サービス、家賃などは、数カ月から数年に1度しか価格を改定する機会が訪れない。そうした財やサービスを供給する企業が価格変更を行う際には、それが「価格改定の希少な機会」である分、将来のインフレ見込みをより真剣に検討・考慮して値付けを行うと考えられる。対照的に、毎日や毎週、毎月のように価格変更をやり直せる石油元売り会社やガソリンスタンド事業者、電力会社などは「値付けを間違ってもすぐに直せる」ため、真剣さは相対的に落ちるだろう。

 こうした考察から価格改定頻度が低い品目には、(改定頻度が高い品目に比べて)長期のインフレ期待がよりよく反映され、それらを集計した粘着価格CPIは、(改定頻度が高い品目を含む)通常のCPIよりも、今後の物価動向への示唆が大きいと考えられる。

 また、クリーブランド連銀が算出する期待インフレ率は1年先から3年先といった短期を中心に「横ばい」か「上向いて」いる。さらに、全米自営業者連盟(NFIB)が毎月、参加企業にとっているアンケートに基づくと、今後3カ月において「販売価格を引き上げる」と回答した企業の割合から「販売価格を引き下げる」と回答した割合を差し引いたDI(ディフュージョン・インデックス)がこのところ、上向いている。過去をみると、DIは前年同月比でみたPCE(個人消費支出)インフレ…

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